注目のアーティストたちが参加したワンウェイアルバム『This World Riddim』が待望のリリース

古今東西さまざまな音楽が存在すれど、ダンスホールほど『便乗』の得意なジャンルが未だかつてあっただろうか。
ジャマイカ生まれのこの音楽は、複数のアーティストが同じリディム(※他のジャンルで言うところのインストゥルメンタル)で歌う「ワンウェイ」という独特の文化を生み出した。同じリディムに乗るからこそ、それぞれのアーティストの個性がさらに際立って浮かび上がる。リディムは同じでも、アーティストの感性のフィルターを通すとまったく違う物語が紡ぎあげられる。『この世界』にそんな「化学反応」が生まれるから、ワンウェイアルバムはやめられないのだ。

Drakeの楽曲にPopcaanがフューチャーされるなど、ジャマイカ生まれのダンスホールは、今や「世界のダンスホール」に変わりつつある。それに伴って、Rvssian、Dre.Skull、IzyBeatsなど、ダンスホール畑出身の売れっ子プロデューサーも、枚挙に暇がないほどである。
日本人プロデューサーDFによるリディムは、そんな世界の名だたるプロデューサーと比較してもまったくひけをとらない。またリディムというのは、特定の言語に縛られない分、国境の垣根を越えやすい。彼の作るリディムに、たとえば、あのダンスホールキングのVybz Kartelが乗る日もいつかやってくるかもしれないのだ。
DFによるリディムに彩られた7つの物語。それぞれのアーティストのフレイバーが存分に発揮された内容となっている。アーティスト独自の考え方やアプローチはあれど、『この世界』に対する愛、そして優しい眼差しが向けられているという意味では、通ずる部分が多分にある。切り絵アーティストAyumi Shibataによるジャケットもまた然り。我々を音楽の世界に誘うのは、包み込むような温かみのある彼女の作品である。
また、本作の後には、Hibikilla「この世界 (Remix) feat. Galiano」のリリースが予定されており、まだまだこのリディムの余波は止まりそうもない。Hibikillaのアツイバースはそのままに、HIPHOPシーンに多大なる影響を及ぼしてきたDABOとダンスホール界期待の新星、Galiano、オリジナルとのリリックの聴き比べをしてみるのも一興。とにもかくにも必聴の一作であることは間違いないということをここに記しておく。

[Track list]
1. Galiano「Live My Life」
2. Ace-mark「Dad」
3. Moya-C「Tighty」
4. E-Gaaa「Friends & Family」
5. Kemballa「This World」
6. Ragga-G「Neva Give Up」
7. Hibikilla「この世界 feat. DABO」
8. This World Riddim (Instrumental version phase 1)
9. This World Riddim (Instrumental version phase 2)

Genre: Reggae (Dancehall) 
Label: I-Note Records
Artist: Various Artists

各種配信リンク ▼
Various Artists – This World Riddim
2021年6月16日(水)配信開始 

Galiano「Live My Life」

「思ったら止められない」「流れは変えさせない」「口より先に動かす手足」
フィリピンと日本にルーツを持つGalianoが夢と現実の狭間でサバイブする自身の心情をありのままに吐露している。自らの人生の舵は自らで取る。当然の事実だが、実際にそうある、またはそうあろうとしている人がどれほど『この世界』にいるだろうか。痛みを感じずして得るものはないと理解はし得る。しかし実際に痛みを感じ、痛みを引き受け、痛みを恐れても尚、自分の人生を生きようとももがき続ける姿勢そのものが「Live My Life」なのかもしれない。

Acemark「Dad」

渡JAの記憶も新しいAcemark。ダンスホールのヒットアーティストMasickaとのコンビ曲「Buss dem head」で、一躍シーンに名を響かせた彼の出身は、何を隠そう長崎県壱岐島という離島である。温暖な気候、美しい海と夕焼け。日本にありながらどこか南の異国の雰囲気を漂わせる、そんな場所でAcemarkは生を受けた。豊かな自然、ジャマイカの音楽、もちろんそれらが彼を育てたことは自明である。しかし密かに彼に影響を与え続けたのは、他でもない彼の父親の存在であった。子から父への思いは時として素直に表現されないことがある。失ってはじめて気づくものもある。そんな父への思い、そして人生への決意を込めた1曲。父の背中を追いかけて走り続けたその先に、Acemarkはどんな景色を見るのだろうか。

Moya-C「Tighty」

埼玉県熊谷市。「日本一暑い街」として有名なこの地から生まれた、同じく「アツイ」ダンスホールアーティストが一人。その名もMOYA-Cである。MOYA-Cの真骨頂といえば、もちろんファッションとスラックネス(下ネタ)にあるが、、、、と、ここまで書けばタイトルの「Tighty」の意味するところも自ずと明らかになるだろう。世の男性が「tightなpussy」を愛している事実は言わずと知れているが、「女性とpussy」を心からリスペクトし、あらゆる角度から描写できる表現力を持ったdeejayは、彼を置いて他には存在しない。

E-Gaaa「Friends & Family」

レゲエの世界において時として「Family」は「かけがえのない大切な友人」を意味することがある。ジャマイカのゲットーでは、同じ釜の飯を食べ、同じ夢を描き、同じ苦労を共に味わってきた者はまさしく「家族同然」となるのかもしれない。ここ日本においても、誰しも「友人」は存在するだろう。しかしその中で「家族と呼べるほどの友人」を持つ者はそう多くないはずだ。1996年生まれ、兵庫県神戸市出身の若手deejayであるE-Gaaaにそう呼べる友がいることは、まさしく彼が「引き寄せた運命」であるのかもしれない。しかしもちろん「運命」は正しく努力をしている者にしか巡ってはこない。もし彼に巡り合わせがもたらされたと言うのなら、そこには彼自身の日々と未来へのstruggleがあったに違いないのだから。

Kemballa「This World」

誰しもこの世界に生きる意味を考えたことはあるだろう。めまぐるしく過ぎる日常の中で、ふと立ち止まりたくなる時、そんなことをつい考えてしまう。どうして生まれてきたのだろう。なぜ自分はここにいるんだろう。いくら考えても答えは出ない。テレビに流れる悲しいニュースを見るたびに、この人たちは何のために生まれてきたのか。何のために生はあるのか。いくら考えても答えは出ない。また朝が来て日常が始まる。その繰り返し。 
そんな中でも、少しだけ日常は美しく輝くことがある。青く澄み渡る空、四季折々の顔を見せる山々、無邪気な子供たち。どれも「この世界」があればこそ、「生」があればこそ感じることのできるものだ。そう考えると、この世界に生まれてきた意味なんて本当はないのかもしれない。いや、あえて言うならば、ふとした日常の美しさを感じることこそが、生きている意味になるのかもしれない。 
ロックバンドのボーカルを務めていたkembellaならではのソフトな歌声で届けられるリリックは、我々にそんなささやかな気づきを与えてくれる。

Ragga-G「Neva Give Up」

Ragga-Gと言えば、1990年代から歌い続ける、シーンの大ベテランであり、現在はポンコツインクのメンバーとしても精力的に活動を続けている。
〜諦めなきゃ 続きあるドラマ 一寸先分からないよ〜
渋谷Bar Ballでのダンス「SUBWAY」の主催、自身のレーベルB-REGGER’Sからのリリース。どれも彼が長きに渡って継続し続けていることである。彼こそまさに「Neva Give Up」の体現者であると言っても過言ではない。                
昨今SNSでのバズによって、無名の新人が一晩にして大スターとなることも珍しくなくなった。しかし本当に大事なことは、「愛情とかける手間暇」であることもまた揺るがぬ事実である。長く歌ってきた彼だからこそ紡げる、レゲエへの最大級の愛をしかと感じた。

Hibikilla「この世界 feat. DABO」

インテリジェントな渋み漂うレゲエアーティストHibikillaと、かつてNITRO MICROPHONE UNDERGROUNDで日本中のHEADSたちを夢中にさせてきたHIPHOPアーティストDABOとには、ある共通点がある。年齢か、出身地か? はたまた女性の好みか? 残念ながらどれも当てはまらない。
それは「子どもを持つ父親」だということだ。若さは永遠ではない。時間は平等に過ぎ、人は誰しも老いる。その現実の中で、人は「未来」を「子どもたち」に投影するのかもしれない。
一般的にdancehallやHIPHOPは「若者の音楽」とされていることは否めない。その一方で、アーティストが子を持ち、年齢を重ねることで、新たな言葉、新たな表現が生まれることもまた事実として存在する。人生の酸いも甘いも嚙み分けた彼らだから、今だから、表現し得る「コト」がある。

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