【インタビュー】永村夏美さん (NPO法人 LINK UP JAJA 代表) | ジャマイカと日本を繋げる

Interview by Luma | Text by BM Staff

常夏の気候、美しいビーチをはじめとする豊かな自然、そしてレゲエミュージック、たくさんの魅力を持つジャマイカだが、一方ではインフラの未整備や社会福祉の不充実、貧富の格差など、数々の問題を抱える国であることも事実だ。そうした環境で青年海外協力隊としての活動を経て、新型コロナウイルスのパンデミックでの緊急帰国をキッカケにNPO法人 LINK UP JAJA(リンコップジャジャ)を立ち上げた永村夏美さん。「障害を持つ方が外に出るだけでなく、働ける環境づくりをしたい」と想いを抱き自ら事業を手掛ける彼女が、ジャマイカの現状を伝えてくれた。

ジャマイカと繋がってプロジェクトがしたい

BUZZLE MAGAZINE(以下BM):それではまず、NPO法人LINK UP JAJAの立ち上げのキッカケを教えていただけますか?

永村:私がジャマイカに足を運んだのは17歳のころが初めてで、その後高校を卒業してジャマイカ留学を経験して、その後ずっと日本とジャマイカを行き来してるんです。ジャマイカと繋がってプロジェクトがしたいという想いもあり青年海外協力隊で活動していたのですが、今回の新型コロナウイルスの影響で緊急帰国しなくてはいけない状況になりまして。自分で何か始めるしかないなと思い、LINK UP JAJAを立ち上げました。

− BM:立ち上げてからは、どういった活動から始められたんですか?

永村:立ち上げ当初のプロジェクトはフェアトレード事業になります。コロナウィルスの影響で友人が失業し生活に困っていたので、応援しようとお金を送っていたのですが、いつまでもできることではないので…。もともと手に職のある職人さんから商品を買って、日本に仕入れて販売することを始めたんです。コロナウイルスの影響で船便は止まっていて高い航空便しか使えないというのもあり、ほとんど儲けは出ない状況なのですが。この活動も個人単位で行うより法人にして大きな動きを視野に入れて活動したほうがいいのではないかと思い、NPO法人を始めるキッカケにもなりました。現在も職人さんから直に仕入れて日本に輸出していて、職人さんにインタビューを録ったりしながらフェアトレード事業をしています。

BM:まずは周りの人助けから始まったんですね。ちなみにフェアトレードというと具体的にはどういったことですか?

永村:生産者と公正に取引するのがフェアトレードです。製品の完成に携わっている人に真っ当な賃金を支払う。もちろんそうじゃない商品に比べて値段は高くなるんだけど、その部分に付加価値を感じてくれる人が買ってくれます。LINK UP JAJAでは、サンダルやかばん、シャツなどを作って、職人さんと直接交渉して販売しています。ジャマイカ政府にもフェアトレード推進の動きがあり、フェアトレードチョコレートなんかも販売されています。これはけっこう新しい動きになりますね。

出会った人を出会わなかったことにできない

BM:フェアトレードの他にも行われている事業はありますか?

永村:1つは、チャリティ要素の大きいことを意識した事業です。私は日本で働いているときは介護ヘルパーをしていて、もちろんジャマイカにも障害を持っている方はいるんですが、社会福祉がない。今は日本だと日中をデイサービスで過ごしたり、ヘルパー制度を利用したりして一緒に外出するのが普通になっていると思うんですけど、20年くらい前までは日本でもそういう福祉制度が整備されていなかった。障害のある方や支援者が政府に訴えかけて今ある制度を勝ち取ってきたという背景があるんです。ジャマイカでは以前の日本のように、障害のある方はずっとお家にいるか、そういう施設に収容されているか。LINK UP JAJAではそういった障害を持っている方たちの居場所を作る活動を核の部分として活動しています。

− BM:社会福祉については具体的にどういった問題がありますか?

永村:障害者の居場所を作るということで、まず調査が必要なんですね。障害を持っている方のお家へ訪問するんですけど、一番最初に行ったお家が、お父さんが高齢でお母さんが目が見えなくて、息子と娘も知的障害を持っている。家も小屋のような感じで、ギリギリ機能はしているけど電気は通ってない。正直、そうなってくると障害者の支援よりも先に貧困の問題が出てくるんですよ。それはどの家に行ってもそう。

– BM:なるほど。金銭的な問題は必ず出てきますよね。

永村:他の件でも、娘を養護学校に通わせたいという頼みで、手続きの手順を教えるんですが、まずお医者さんに診断書をもらわないといけない。でもお医者さんに診せるお金がなかったり、なにをするにもまずは「お金がない」という問題にぶつかります。なので私たちが行っているのは、こういった状況の人がどうしたらいいか?ということを行政に尋ねて、家族に伝えて一緒に面談に行くみたいな支援をしていますね。

– BM:困っている人たちの問題解決への最初の一歩目をサポートするわけですね。

永村:でもそれだけだとダメだと思うので、教会を貸し切ってお菓子やご飯を無料で提供して、映画鑑賞会を開くことで障害を持っている方が少しでも外に出るキッカケになれるような動きも予定しています。正直、お金がないというのは今後もつき纏ってくる問題で、私が訪問したときはみんな「お金くれるの?」って質問してくれるんですけど「違います」と。お金をあげる支援は持続可能ではないので、普段の過ごし方を聞いてその人が何に困っているかを整理し、支援してくれそうな行政機関を紹介したりしています。

– BM:福祉の問題に対して経済的な問題が重なるのは、解決までの壁が多いですね。

永村:壁に次ぐ壁が多いですね…。でも私のポリシーとして、”出会った人を出会わなかったことにできない” というのがあって。初めて訪問したお宅から大変な気もしましたが、そんな家庭はジャマイカいくらでもいるから。全員を助けることはできないけど、出会ったからには関わり続けていくっていうのは、法人のポリシーとして持っておかないとな、とは思っています。大変な状況の家庭だと、地域の人に気にかけてくださいとお願いしたり、行政の事業の内容を伝えたり、ただ顔を見に行ったり。そういった方々は地域と関わりがないことがほとんどなので、お菓子を持っていって「あなたのことみんな覚えてるよ」って伝えたりしますね。

ボブ・マーリーの時代から訴えてることは変わっていない

– BM:ジャマイカではなぜ社会福祉の整備が進まないんでしょうか?

永村:国として持っている予算が少ないからですね。

– BM:となると、国内だけでは解決できないことも多いかと思うのですが、海外諸国からのサポートはないのでしょうか?

永村:ジャマイカだけでは問題が解決できないというのは私も思っているのですが、搾取されてしまうシステムが出来上がってしまっていて。ジャマイカって主産業は観光業で成り立っていて、海外の会社がジャマイカに投資しやすいように、最初の5年間は法人税を割引きする制度があるそうです。ところがその会社は5年後に会社の名前を変えて新しいビジネスとして営業するので、法人税がずっと割引されているということがあるんだとか。それでも従業員の雇用を生んでいることはありがたいですが、少しずるい気もします。ボブ・マーリーの時代から、現在プロトジェやクロニクスが訴えてることって変わっていないんですよ。つまり状況も変わっていない、貧しい人は貧しいまま。

– BM:確かにずっとメッセージは変わりませんね。

永村:今はジャマイカドルが下落して、どんどん貿易赤字が大きくなっていて。自分のお金の価値が下がって生活がだいぶ苦しくなっている。海外から商売する人は儲かって、ジャマイカ人はどんどん貧困になっていく。日本だったら暴動が起きてもおかしくないのに、ジャマイカ人はこういう苦しみを受け入れてしまうんです。プロテストが起きない。もしくはプロテストが起きても政治に影響しない。

– BM:ジャマイカではなぜ暴動などが起きないんでしょうか?

永村:ジャマイカ人にどうしてジャマイカでは市民運動が起こらないのか聞いたことがあって、ある友人は「ジャマイカは植民地され、奴隷として現在のジャマイカ人の祖先がアフリカから連れてこられた。そういう国の成り立ちがもたらす負の遺産かもしれない」と言ってました。

– BM:そういった部分も含めて、やはり海外からのサポートが必要なのでは?

永村:それもあるのですが、やっぱりジャマイカ人が立ち上がらないといけない。私もこの議論をよくジャマイカの人とするんです。例えば、一生懸命働いても生活が向上しないタクシードライバーの友人に「ドライバーのみんなで労働組合を作るとかして政府と闘った方がいいんじゃないんですか」って。すると「日本とジャマイカは違うから上手くいかないよ」っていうんです。ジャマイカ人もシステムと戦ってきたけど、上手くいかなかったから、そんなことしても無駄だと諦めてる人が多い。だからジャマイカのアーティストは諦めたらダメだと訴えてるんです。

– BM:現状に諦めを感じてしまっているんですね。

永村:私これから障害者の居場所を作るにあたってジャマイカの人権問題を訴えていかないといけないと思って。同じ人間なのに障害を持っているから家にこもらないといけないのは人権侵害。だから居場所を作りましょうって訴えたいんですが、そもそもジャマイカ人の人権が保障されていない。高い物価と低い所得に苦しんで当たり前の暮らしすらできない人がたくさんいるけど、それは彼らの “人間らしく生きる権利” が保障されているとは言えないと思います。でも本人たちがそれに気づいていないんです。ジャマイカの人たちは連帯して市民運動を巻き起こす必要があると思います。でも、あまり政治に首をつっこんで目立つようなことすると危ないよって言われるんですけど。

関心を持つことは第一歩

– BM:NPOなどに属していない一般の方がジャマイカのためにできることってありますか?

永村:関心を持つことは第一歩です。問題が理解できれば、自ずとやれることは見つかると思います。

– BM:その関心を持った後の知識を深めるツールはどういったものがありますか?

永村:例えば映画「ジャマイカ楽園の真実」は、かなりジャマイカの問題を知ることができます。また、レゲエという音楽が私たちを教育してくれています。レゲエを聴いている人はそういった意識がしっかりと根付いている人が多い気がしますね。

– BM:そうですね。レゲエを聴く人はジャマイカについて考えることも多いと思います。

永村:私もジャマイカの音楽が好きなので、LINK UP JAJAとして音楽も事業に取り入れたいと思っています。芸術を通して国際交流することも視野に入れていて、今後は音楽をやっている方々の力も借りながら、日本でイベントを行ったり、ジャマイカのスタディツアーをしようという動きもあります。もちろん音楽にも触れてもらうのですが、それと同時にジャマイカの大変さやその中で頑張っている姿を目撃してほしい。そういった学びを深められるツアーにもしたい。

– BM:最後に今後の目標などあれば教えていただけますか?

永村:ジャマイカで障害者の方が働くお店をやりたいなと思っています。障害者の居場所づくりの資金を調達する時に寄付を募り続けるのは難しいと思っていて、サステナブルなあり方を目指した時に、経済的に自立できるように商売を成功させるしかないと思ったんです。もちろん成功例もあって、キングストンに聴覚障害者が働く素敵なカフェがあって。できないこととは思っていません。障害を持っている方を外に出すだけではなく、働ける環境まで作っていきたいと思っています。

LINK UP JAJA

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【Instagram】@linkupjaja

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