【インタビュー】EXPRESS | Signal E

Interview by Luma | Text by BUZZLE MAGAZINE 編集部

レゲエファンであれば誰もが一度は耳にしたであろうビッグヒット『もぐらの唄』を生み、シーンをリードするアーティストの1人となったEXPRESS(エクスプレス)。キャリアを積み重ねベテランと呼ばれる存在となった今も本場ジャマイカへ何度も足を運び、そのスタイルは常にフレッシュなものへとアップデートされ続けている。挑戦をやめることのない彼は仲間と共に新たなレーベルTEAM BLOCKAを立ち上げ、自身3作目となるアルバム『Signal E』をリリースした。陽の目を見ない時期も文字通り “もぐら” のように進み続け苦節を乗り超えた男が、聴く者の胸を熱くさせるシグナルを送る。

新たなレーベルからの名刺的な1枚

− BUZZLE MAGAZINE(以下BM):ニューアルバム『Signal E』リリースおめでとうございます。今回で3作目のアルバムになりますが、過去の作品と比べるとかなりスムーズに聴ける印象でした。

EXPRESS:そうやね。前よりもスタイルが確立されてきたっていうのがあるのかな。自分的に前作まではいろんなことを試してた感があったけど、今は自分のスタイルを見せてるっていう感じで、一貫性があってスムーズに聴けるのかもしれないっすね。

− BM:そうですね。ダンスホール、ミディアム、ヒップホップなど、いろんな雰囲気を感じられるけど、全体を通してまとまっている印象でした。自主レーベルからのアルバムリリースは今回が初ですか?

EXPRESS:前回も自主レーベルからのリリースだったんですが、今回はようやく仲間たちと立ち上げた新レーベルTEAM BLOCKAからリリースできました。TEAM BLOCKAは10年ぐらいずっと一緒にやってきたプロデューサーが在籍してるので、制作自体はそのプロデューサーが全体的に見てくれてる感じです。

− BM:となると、プロデューサーの方の色も濃く出ている感じですかね。

EXPRESS:毎回曲作るときは、プロデューサーがいてくれたり、マネージャーのDUKEがいてくれたり、周りの連中がいてくれるから自分はみんなに安心して任せれるんで、お任せな感じのとこもあるんですよ。

− BM:チーム一丸での制作って感じなんですね。

EXPRESS:そうやね。アーティストのSHOWGAやDIZZLE、MARSHALL、ZOVE KING、ONGYAだったり、マネージャーのDUKEとか、裏方、サポートしてくれるメンバーで動いてて。何曲かリリースしててんけど、アルバム単位では初めてこのチームでリリースすることができたんで、自分ら名義の名刺的な1枚ですね。

レゲエだけにとらわれない

− BM:今後はTEAM BLOCKAからもどんどん作品をリリースしていく予定ですか?

EXPRESS:そうやね。次はSHOWGAっていうアーティストがいて、自分たち的には力を入れてる期待のアーティストなんです。Signal Eの次はSHOWGAのEPが待ってるんで、そっちのチェックもお願いします。

− BM:そちらも楽しみです。今回立ち上げたTEAM BLOCKAはどういったコンセプトのチームなんですか?

EXPRESS:音楽的に多岐にわたるというか、レゲエだけにとらわれないのがBLOCKAの色です。今回のアルバム聴いてもらっても分かると思うねんけど、レゲエのトラックももちろんあるねんけど、チルいトラックとか、ヒップホップっぽいトラックも使ってます。TEAM BLOCKAのバックグラウンドが、ニューヨークだったりとか、ジャマイカだけに限らず海外に長期滞在の経験があるメンバーが多くて、そういった部分もあって音楽性が多岐にわたってるかなと思います。

− BM:その中でも、EXPRESSさんからはジャマイカを感じられる気がします。特に、今回のアルバムに収録されている『Rudebwoy Town』はジャマイカの情景が見えてくるような作品になっていますね。

EXPRESS:そうやね。ジャマイカの生活を書いたって感じです。自分の目で見てきたものだから、この歌はすごい書きやすかったです。TEAM BLOCKA的にも黒い音ってのはずっと意識してるので、そこにもこだわれたかなと思ってます。

自分の道が開けたらいいなと

− BM:EXPRESSさんって、他のレゲエアーティストと比べるとすごく幅広いリスナー層に聴かれていると思うんですが、そういう部分で制作の際に意識していたり、チャレンジしている部分とかってあったりしますか?

EXPRESS:どうやろ?もちろん意識もしなあかんと思うんですけど、今回のアルバムはそんなに意識してない感じです。みんな自分のメッセージチューンが好きやと思うし、待ってる人らもいてると思うんですけど、でもアルバムはそればっかりじゃなく、いろんな曲を聴いてもらいたいというのが本音です。その上でレゲエも好きになってもらえたらありがたいですね。

− BM:EXPRESSさんの曲でレゲエを知るも多いかと思います。コアなレゲエファンから学生とかまで聴かれているアーティストって少ないかなと。

EXPRESS:ありがたいですね。ただ、幅広い層に届けることばっかりにフォーカスはしてないです。だから『もぐらの唄』とか『交差点』が売れたから、そこに寄せたものを作ろうとかではなくて、自分のやりたいことをやって、聴いてもらって、いいと思ってもらえたらええなあって感じです。

− BM:EXPRESSさんの曲ってすごくポジティブで、聴いた人に勇気を与えるというか、ポジティブな部分を引き出してくれる曲が多いですよね。そういう考えになった起点とかってありますか?

EXPRESS:『もぐらの唄』がキッカケかな。それからそういうポジティブなチューンを出す仕事依頼がめっちゃ増えて、模索しながらだんだん今のスタイルになっていった感じです。求められていることにも、もちろん力を入れたいけど、今回のアルバムに関しては意識せず自然と出てきたことが多いかな。『闘う貴方へ』や『交差点』がみんながイメージするストレートな感じかなと思うけど、自分も年を重ねてきてる中で、やっぱり前回よりは成長を見せたいから、いろんなことに挑戦してます。自分の新たな道が開けたらいいなと思ってます。

勝っても負けても戦い続けなあかん

− BM:今回のアルバムの中で、EXPRESSさん的に特に推したい曲はありますか?

EXPRESS:もちろん推し曲は全部なんですけど『笑う門』と『Untold Story』はすごい挑戦できたかな。いつもは使用しない感じのリズムに乗せてチャレンジしてます。あとは、今回唯一の客演でSHOWGAが参加した『Family a Family』も面白いと思います。SHOWGAの音楽的才能にはいつも驚かされていて、今回もいい刺激をもらいながら作れました。

− BM:曲名もFamily a FamilyでTEAM BLOCKAにふさわしい曲ですね。

EXPRESS:そうやね。あとは『Ninja Sword』なんかは現行のダンスホールに挑戦してます。やっぱりアルバムには自分の進化した部分も見せたかったから、色んな乗せ方に挑戦したりとか、そういう部分が出せたかと思います。

− BM:新しいスタイルに挑戦しながらも、EXPRESSさんの色やスタイルが出ていますね。『50/50』では「うまくいく確率ならフィフティ・フィフティ」というリリックが印象的ですが、50%の状況から成功に導くための工夫とかマインドセットってどうしていますか?

EXPRESS:難しいんですけど、成功ってどこまでいったら成功なんかがわからなくて。だから今も走り続けてるってところですかね。

− BM:そうですよね、そうですよね。

EXPRESS:そう。何が失敗なのかもわからへんけど、でも成功もわからへんところで日々戦っていると思ってて。人生が続く限り、勝っても負けても戦い続けなあかんなって思います。でも、もちろん最後には勝ちたいよねっていうところです。

ハッピーなメッセージが多い

− BM:そんな戦い続ける挑戦者へのメッセージソングとして戦うアナタヘが2021verとして今回収録されていますね。

EXPRESS:そう。2020年にリリースした曲を録音し直して、さらに歌詞を加えて、新しいバージョンに。

− BM:2021年バージョンでより工夫した部分とかってありますか?

EXPRESS:この曲はジャマイカでGACHAと作った歌なんやけど、リリースしてから聴いているうちに、やっぱり3番バース欲しいなと思ってきたんですよね。それでずっと考えてたら、ダブ録音するときに3番を作ってくれってリクエストがあって、それでいい感じのができたから、アルバムには新しいバージョンを入れたいと思って作りました(笑)だから、自分の中ではこの曲はこれで完結したかなと思います。

− BM:そうやって歌詞が制作される場合もあるんですね。BANTY FOOTプロデュースの『交差点』に関しても、2021verでガラッと印象が変わりましたね。

EXPRESS:交差点はもぐらの歌以降の、ここ最近の僕の中のヒット曲なんですが、この曲自体のオリジナルはすでに知ってる人も多いので、アルバムでは雰囲気ガラッと変えたいなと思って。聞き入れる感じで作り変えました。

− BM:落ち着いた雰囲気の『交差点』から、メッセージ性の強い『Untold Story』へ続きますね。

EXPRESS:ホンマにまあ… ラブ&ピースが大事というか。最近ネットなんかで誹謗中傷が問題になってるじゃないですか。なんかね、言葉1つで人が亡くなったりとかって、自分の中ですごい引っかかってて。昔はそんな事なかったのになって。後は、コロナ禍で世の中が分断されていたり、少し前に世界中で話題になったBlack Lives Matterだったり。同じ人間なのに、そんな争わなくていいのにと思いながら、平和を願い作りました。

− BM:確かに問題が表に現れて殺伐とした雰囲気というか、人が命を落としてしまうニュースも多いですもんね。

EXPRESS:世の中絶対ピースなほうがいいと思うし、『笑う門は福来る』も笑っていこうよっていうのがテーマだったりします。『Untold Story』と『笑う門は福来る』の2曲に関しては普遍的な広い視点で感じたことを歌詞にしてるので、いろんな人にも伝わるような曲になったかなとは思ってます。より多くの人に聴いてもらえたらありがたいです。

− BM:『約束』もかなり想いがこもった作品になっていますね。約束の相手っていうのは、具体的な人物がいたりするんですか?

EXPRESS:これは2人いて、地元のツレとの約束を歌ってます、地元を離れててあんま会う機会もなかったんですが、10年前くらい前に久しぶりに一緒に夢を語ることがあって、その時に熱く語り合って、お互い自分のやりたいことで成功しようなって約束をしました。そのツレは最近亡くなってしまったんですが、その時の約束は忘れてないからな、っていう気持ちを歌った曲です。

アルバムを通して聴いてもらいたい

− BM:今回のアルバムを聴いてくれる方々に、こういう部分を汲み取って聴いてほしいとか、こんなシチュエーションで聴いてほしいとかありますか?

EXPRESS:1回は全曲を通して聴いてもらいたいですね。今の音楽の聴き方って、アルバムっていうフォーマットが失われつつあると思うんです。そこを改めて突き詰めて、1枚通してのアート作品として作り上げました。曲順、その次の曲の入るタイミングや、細かいディテールにもこだわってます。もちろん1曲づつの想い入れもあるんですけど、1枚として聴いてもらうともっと意図が伝わるんじゃないかなと思います。

− BM:そうですね。アルバムとして聴くと、さらにこだわりが伝わってきます。

EXPRESS:ホンマ、全てTEAM BLOCKAファミリーのおかげです。ここまで細かくこだわれたのも、1人やったら絶対無理だったと思うし、今後とも力を貸してもらって、まだまだEXPRESSの成長を見せていければいいかなと思います。

− BM:収録曲のミュージックビデオのリリースなども予定していますか?

EXPRESS:アルバムの中から4本制作しています。2本はすでに公開されていますが、今後『Rolling Stone』,『Family a Family』の2本がリリースされる予定なのでそちらもチェックお願いします。

− BM:そちらも楽しみです。今後の更なる活躍にも期待しています。

EXPRESS:あとは、このアルバム引っさげて来年の初春にツアーやりたいなって思っています。最終は4年ぶりのワンマンライブまでやりたいと思ってますのでよろしくお願いします。

EXPRESS – Signal E

オフィシャルTwitterで最新情報をチェック!