【インタビュー】ジャマイカでのクリスマスとお正月の過ごし方

Host by Natsumi Nagamura
Text by Luma & BUZZLE MAGAZINE 編集部

レゲエ発祥の地ジャマイカのクリスマス、そしてお正月。日本から遠く離れ文化や信仰も異なる国で、年末年始の二大行事はどう過ごされるのか?日本と同じようにクリスマスにはケーキやフライドチキンを食べ、お正月にはお年玉を配るのだろうか?今回はジャマイカで社会貢献活動を行うNPO法人 LINK UP JAJA の永村夏美さんをホストに迎え、現地で生まれ育ったニコルさんにインタビューしジャマイカ流のクリスマスとお正月を教えてもらった。

永村夏美:ニコルさん、インタビューに協力してくれてありがとうございます。今日のトピックは「ジャマイカでのクリスマスとお正月の過ごし方」です。

まずはじめになんですが、お気に入りのジャマイカン・クリスマスソングはありますか?

NICOLE:Carlene Davisの『Santa Claus (Do You Ever Come To The Ghetto)』が好きよ。この歌が好きなのは、これがジャマイカオリジナルである点かな。

永村夏美:「ゲットーの人にもクリスマスを」という内容の曲ですか?

NICOLE:そうね。日本や世界のサンタクロースは、ソリに乗ってやってきて、たくさんのプレゼントを持ってきてくれるでしょ? でもジャマイカのリアリティでは、子供たちは必ずしもクリスマスプレゼントをもらえるわけじゃないの。だから「サンタさん、私たちのところにも来てくれるの?私たちのプレゼントはどこにあるの?」そんな曲ね。

永村夏美:ニコルさんが小さい時は、プレゼントをもらっていましたか?

NICOLE:ジャマイカではクリスマスにプレゼントをもらう形が随分違うの。靴下にプレゼントを入れるのはジャマイカの伝統的なスタイルじゃないわ。クリスマスイブには「グランドマーケット」と呼ばれる一晩中行われる大きな夜市があって、その夜市に子供と一緒に行って、子供が欲しいと言った物を買うの。もちろん、親にお金があればの話だけれど。だから、前もってプレゼントを買っておいて子供たちを驚かせる、というのとは違うのよね。

永村夏美:なるほど。ニコルさんが今までもらったプレゼントで一番嬉しかった物は何ですか?

NICOLE:私は幼い頃、可愛らしいロングヘアーのお人形が欲しかったの。でも、それは買ってもらえなかった。だから自分で縫ったのよ。それが私の最初のお人形になったわ。実際に母からは本をもらったわ。「*Around the world in 80 days」というタイトルだったと思うけど、今でも持ってるわ。何度も何度も読んだのを覚えているの。

*「八十日間世界一周」として日本語訳の本も出版されている

永村夏美: 子供のプレゼントに本を贈るというのは素晴らしいアイデアですね。ジャマイカの国教はキリスト教ですよね。ジャマイカン・クリスマスソング以外に、一般的なキャロルなども歌われるのでしょうか?

NICOLE:伝統的なクリスマスソングももちろん歌うわ。だけど聖歌隊が家々を訪れて歌うようなことはしなくて、家や教会で歌うのが一般的ね。クリスマスは教会が一年で一番忙しくなる時期よ。クリスマスの前後、ニューイヤーの前後の日曜日に教会に行くのが伝統的になっているから、その日は教会が人でいっぱいになるの。

永村夏美:歌を歌ったり神父さんの説教を聞いたり、そういう事をするんですか?

NICOLE:歌はそんなに歌わないの。教会に行ったらキリストの誕生についてのリサイタルがあったりはするけど、大まかに言うと「命あることに感謝する」という行為かな。

永村夏美:「Give Thanks for Life」ですか?

NICOLE:まさにそうよ。

永村夏美:ジャマイカのカルチャーで好きなものはたくさんありますが、この「Give Thanks for Life」という考え方は重要な部分ですよね。日本で暮らしていると、仕事や住む家、食べる物、社会保障が当たり前に用意されていて、自分が恵まれていることに気づけなかったりもします。ジャマイカではテーブルに並ぶ食べ物や命あること自体にすごく感謝して生きていますよね。私はいつもそのことに胸を打たれています。

NICOLE:「Gratitude(感謝)」という文化は、ジャマイカの歴史的な経験からきていると思う。ジャマイカ人だけじゃなくて、カリブに住む人たちや、各地の*ディアスポラは、他とは違う経験をしているの。だから私たちは、自分が今持っているものに対してリスペクトや感謝の気持ちを持っている。私たちの多くは、自分が与えられていることを当然のように思えるようなレベルの生活を、まだ実現していないと思うから。「Give Thanks for Life」や「Bless up」という言葉は挨拶にまでなっているでしょう。

*元の国家や民族の居住地を離れて暮らす国民や民族の集団、コミュニティを意味し、「移民」「植民」とも訳される

永村夏美:私、ジャマイカの人たちがお互いに挨拶をするスタイルがとっても好きなんです。「Wah gwaan Rasta?(調子はどう、ラスタ?)」「Give Thanks for Life(命あることに感謝しているよ=元気だよ)」みたいな感じですよね。

NICOLE:そうそう!

永村夏美:ところで、クリスマスはキリストの生誕祭ですが、ジャマイカにはたくさんのラスタファリアンがいますよね。セラシアイの生誕祭ってあるんですか?

NICOLE:うーん、セラシアイの生誕祭については分からないけれど、多くのラスタファリアンがクリスマス行事にあまり積極的に参加しないだろうということは分かるわ。だけど、クリスマスにちなんだ地域のイベントには参加するかもしれないわね。食事やドリンクのサービスがあるし。グランドマーケットについては宗教的なものではなくてお祭りだから、ラスタファリアンももちろん参加するわよ。

永村夏美:ラスタファリアンはマーカス・ガーベイの誕生日や命日を祝うことはしますよね。Irie FM(ジャマイカの老舗のラジオ局)がとても大きなイベントを毎年行っています。

NICOLE:コロナのせいでこの2年間は行われていないけれど、マーカス・ガーベイの生誕祭は年々大きくなっているわね。教育的な側面が大きいイベントだけれど、ラスタファリアンではない人たちにも広く支持されて、メインストリームな動きになっているよね。マーカス・ガーベイが説いたことを学ぶことが、今どれだけ重要かということが積極的に話されているわ。

永村夏美:私は2年前のIrie FMで行われたマーカス・ガーベイ・セレブレーションに行きましたが、ムタバルーカがホストを務め、アフリカから*パンアフリカニストが来てスピーチをしたり、伝統的なジャンベ演奏もあったりして、素晴らしかったです。

*アフリカ大陸の住民及び、全世界に散らばったアフリカ系住民の解放及び連帯を訴えた思想を持つ人

NICOLE:「ジャマイカがひとつになって未来に向かって進もう」「真の意味の独立を実現しよう」「自分たちのアイデンティティを知ろう」「自分のルーツを知ろう」ということが改めて議論されているね。

永村夏美:「Remember your roots / Know where you are from(自分のツールを思い出そう / 自分がどこから来たのかを知ろう)」というのはとても大切なメッセージですね。

NICOLE:そして「Know where you are going(自分がどこに向かっているかを知ろう)」ということもね!

永村夏美:確かに!自分がどこに向かっているかを知るには、自分がどこから来たかを知らなくてはいけないと。

NICOLE:その通りよ。

永村夏美:誰にとっても大切な問いですね。では、次はニューイヤーの過ごし方について聞いてみたいです。例えば日本にはお年玉という文化がありますが、ジャマイカではどうですか?

NICOLE:お年玉?それはジャマイカには無いわね(笑)

永村夏美:子供が親からお金をもらう機会ってあるんですか?

NICOLE:あるとしたら、誕生日くらいかな。お金をあげるというのはジャマイカにはあまり無いわ。ニューイヤーの過ごし方についてだけれど、花火が上がったりするようになったのはここ20年くらいのことなの。ニューイヤーは「ウォッチナイト」という伝統的な文化があって、言葉通り新年を迎える日を “目撃する” ことなの。新年が無事やってくるのか、それとも何か起こるのか。例えばキリストが復活するのかどうか、それを見守るのよ。大晦日の夜8時に教会に行って、祈ったり神に感謝したりして、新年を迎える。教会に行かなかったとしても、12時を迎えるまでは家で過ごして、Rapture(キリストが天から再臨するときに、地上のキリスト教徒が不死の体になり空中に持ち上げられてキリストに会うという出来事)が起こらなかったかどうかを確かめて、それからパーティーに出かけるの。それをジャマイカでは「ウォッチナイト」と呼んでいるの。

永村夏美:へぇ!それは知らなかったですね。

NICOLE:特に田舎では、今でもみんなウォッチナイトをやっているよ。

永村夏美:今年もするんですか?

NICOLE:今は教会に入れる人数も制限されているし、どうかな。コロナの影響で様々なことがオンライン開催になっているし、パーティーも外出禁止令があるから無理でしょうね。

永村夏美:そうですね。ありがとうございます。次はクリスマスの食べ物について聞かせてください。

NICOLE:ジャマイカのクリスマスにおいて、ソレルとクリスマスケーキはマストね!クリスマスにソレルが出てこなかったら、そんなのおかしいわ。わたしたちのクリスマスケーキはフルーツケーキとも呼ばれるの。

永村夏美:日本のクリスマスケーキとはずいぶん違いますが、どうやって作るんですか?

NICOLE:レーズンや柑橘の皮などたくさんのフルーツを赤ワインとラムに漬け込むの。 1年間しっかり漬け込んだものを、ケーキの生地と混ぜて焼くのよ。ワインとラムの香りがするしっとりしたケーキで、すっごく美味しい!

永村夏美:ソレルとフルーツケーキの他には?

NICOLE:アメリカでは感謝祭に七面鳥を食べるけど、ジャマイカではクリスマスに七面鳥を食べるの。

永村夏美:ジャマイカで七面鳥を?見たことないですね。

NICOLE:七面鳥を育てていた養鶏家の多くが亡くなってしまって、若い人が継がないからね。でも私の地元では必ずクリスマスに七面鳥を食べていたよ。ジャマイカのクリスマスでは、チキン、オックステール、ハムは絶対に必要よ。

永村夏美:カリーゴートも必ず。

NICOLE:ええ、必ずよ!わたしの叔父はローストビーフやローストポークもしていた。1種類だけじゃなくて、それら全てがテーブルに並ぶの。そしていつものライス&ピーズではなくて、グンゴピーズ&ライスを用意する。

永村夏美:なるほど。ちなみにジャマイカには新年のごちそうはありますか?日本には年越しそばという面白い文化があるんですが。

NICOLE:そういうものはないわ。あと、日本人ってクリスマスにKFC(ケンタッキーフライドチキン)を食べるって聞いたんだけど本当?

永村夏美:日本では少なくとも数週間前までに予約しておかないと買えないくらい、クリスマスのKFCは人気だそうですよ。でも、ジャマイカに行ったことのある日本人は必ず「ジャマイカのKFCの方がダントツで美味しかった!」と言います。

NICOLE:ジャマイカのKFCがベストなの!コロナ以後、KFCは史上最高額の売り上げを記録しているの。ポートモアなんかではKFCの行列に数時間並ぶ人もいる。ブラウンズタウンでもね。KFCの値段は今年に入って3回も値上げしているのに、誰もKFCを食べることを止めないわ。オーチョリオスにクルーズで来た外国人もKFCに並んでいて、なんとそれは彼らの旅行プランに含まれているんだって。KFCはジャマイカ人を洗脳してるのよ(笑)

永村夏美:あはは。

NICOLE:だって私、スコットランドにいる妹に会いに行くときにはジャマイカからKFCを持って行かなくちゃいけないのよ。ジャマイカ人が外国を訪れる時にはパティとKFCをお土産に持って行くのはマストよ。

永村夏美:クレイジーですね!マジでKFCを飛行機に持ち込むんですか!?

NICOLE:そうよ!必ずね。わたしUKやオランダ、グアテマラでもKFCを食べたけれど、ジャマイカのとは味が違うの。

永村夏美:私もなるべくファストフードは避けていますが、ジャマイカのKFCを拒むことはできないですね。バーベキュー味が大好きで。日本にはないですからね。

NICOLE:ジャマイカ人は何味が好きかでいつも口論になるのよ。スパイシーが好きか、バーベキューが好きかって。

永村夏美:面白いですね。このクリスマスとニューイヤーに外国から観光客が来ると思いますか?

NICOLE:そう思うわ。オーチョリオスにクルーズ船が週に4回停泊しているしね。

永村夏美:一隻に何千人と言う観光客が乗っているんでしたよね?

NICOLE:ええ、本当にたくさんの人が。状況は少しずつだけど良くなっているんじゃないかな。今はクルーズが港に着いたらバスが迎えに行って、アトラクションなんかに直行してしまうから、まだローカルのジャマイカ人と混ざるようなレベルではないけれどね。

※現在多くの観光客は、観光目的で指定されたエリアのみに滞在している。この措置では、滞在中は指定エリア内のホテル/リゾートに滞在する必要があり、ホテル外では一部のレストランやアトラクション、免税ショッピングモールにしか行かないため (それらのほとんどが外資系)、ジャマイカローカルの商売人にお金が落ちにくい仕組みになっている。

永村夏美:今日はどうもありがとうございました。みなさん、ニコルさんはすごく興味深い女性なんです。彼女はこれまでたくさんの困難を乗り越えてきたし、彼女がなぜジャマイカで弁護士になろうと思ったのか、本当に面白いんです。今度ニコルさんに彼女自身についてインタビューしましょうよ!

NICOLE:ありがとう!

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