【インタビュー】ULEY & 永村夏美 | ジャマイカのリアリティ

Interview & Text by 永村夏美 (NPO法人 LINK UP JAJA)

半年ぶりにジャマイカを訪れ、わずか6ヶ月の間に起こったとは思えない急激な物価の上昇に衝撃を受けている。コロナの影響による経済的ダメージ後の急激なインフレを、ジャマイカの人たちはどう生き抜いているのか。私が運営しているNPO法人LINK UP JAJAと取引のある洋裁家の Hubert Pinto (愛称:Uley) さんに話を聞いてみた。

夏美:本日はジャマイカのリアリティについて伺いたいのですが、まずはジャマイカの良い所を教えてください。

Uley:まず、ご存じの通りレゲエミュージックは私たちのバックボーンだ。ボブマーリーをはじめとする偉大なミュージシャンが世界に向けてジャマイカをハイライトし、私たちの威信を取り戻してくれた。今はコロナの影響で止まっているけれど、レゲエコンサートなどに代表されるジャマイカのエンターテインメントは素晴らしいものだよ。そしてジャマイカは美しい自然に恵まれている。一度訪れたら帰りたくなくなるだろう。

夏美:ジャマイカの大変さはどんなところでしょうか?

Uley:犯罪の多さだ。ジャマイカには、貧しさゆえに苦しい思いをしている人がたくさんいる。大多数の人は一生懸命働いているけれど、中には経済的困難から犯罪に手を染めてしまう人もいる。貧困の背景には、教育機会や就職機会の欠如があるだろう。これについては、ジャマイカ政府に責任がある。学校を卒業したら就職できる、というのはジャマイカでは期待できないことだ。教育や就職の環境が整っていれば、ジャマイカは今のような困難に見舞われていないと思うね。

夏美:半年ぶりにジャマイカを訪れて、あらゆる物の値段が上がっていることに衝撃を受けています。

Uley:石油の価格が上がると、あらゆる物を生産するのにエネルギーが使われるため、物の値段が上がる。また、ジャマイカは多くのものを輸入に頼っていて、ジャマイカドルの下落によって輸入品目の値段も上がっている。つまり、ガソリン、食べ物、バス代… あらゆる物の値段が上がっていることは、もちろん君も気づいているだろう?

出典:Google

夏美:ええ、大きなショックを受けています。給料は上がったのでしょうか?

Uley:ふっ…(失笑)残念ながらこの国には、とても豊かな人たちが貧しい人たちを利用するような構造があるんだ。

夏美:最低賃金は未だに1週間7,000ジャマイカドル (約5,000円) のままなんですよね。

Uley:7,000ドルなんて何も買えやしない。買い物すれば1,000ドルなんてあっという間だ。パンが1斤300ドル、レタスが1玉200ドル…。一体我々ジャマイカ人がどうやって生き延びているのか、自分でも分からないくらいだね。

夏美:例えば、ガソリンを満タン入れるのに半年前と今とでいくら違いますか?

Uley:半年前が7,000ドルくらいで、今はその倍の14,000ドルくらいかかる。

夏美:2倍ですか!それは急激ですね。乗り合いタクシーも、半年前は100ドルだったのが今は150ドルだから、5割増しですもんね。

Uley:政府が設定したタクシー代の値上げは15%なんだけど、ガソリン代の上昇が急激で、それではタクシードライバーが生活できない。低所得者層の乗り合いタクシーのユーザーもそのことを分かっているから、5割増しが違法と分かっていながらもその金額を払っている。それでもタクシードライバーは「儲けにならない」と嘆いているよ。道路もボコボコで車がすぐに壊れるから、修理代もかさむしね。車を維持するだけでとてもお金がかかるんだ。(お金がない人たちは非正規の部品を使った古い車に乗るためしょっちゅう車が故障し、燃費が悪いのでガソリン代もかかる。)

出典:Jamaica Gleaner
ジャマイカの道路は排水設備が未整備なため、大雨のたびにアスファルトが剥がされ穴が多い

夏美:貧しい人たちが痛みを分け合っているんですね。ジャマイカでは、庶民の暮らしが厳しくなるにつれて犯罪が急激に増えています。政府は街に警官や兵士を立たせて犯罪の抑制を試みていますが、犯罪の原因である貧困に対するアプローチがない限り犯罪が減ることはないと思うのですが。

Uley:犯罪を犯す人達の中には、教育機会に恵まれなかったなどの理由で仕事につくことが出来ない人もいる。これは大変苦しいことだ。

夏美:最近のダンスホールチューンの中には「ぶっ殺してやる」みたいな歌詞がすごく耳につく曲がありますよね。それらの曲を聴いていると、若者である彼らがすごく怒っていて、同時にひどく思い悩んでいるのだと感じました。彼らの怒りやフラストレーションは、現代社会が抱える闇を反映していると思います。どうすれば彼らの苦しみを和らげることができるのでしょうか?

Uley:教育や仕事に就く機会が増えて経済的に自立できるようになることが必要だ。政府は様々な形でそれを実現することができるはずだけど、そのようなことは行われていないと感じている。ジャマイカは様々な可能性を秘めている。地元の農業やレゲエ産業、最近注目されているマリファナ産業でも、政府が正しい方向性で支援すればもっとたくさんの仕事が生まれるはずだよ。

出典:nationwideradiojm.com
特別警戒区域ではライフルを持った警官や兵士が検問を行う

夏美:マリファナ産業で言えば、とても高級なマリファナスポットがありますが、ローカルのスタッフがたくさん給料をもらっているかは疑問です。

Uley:勤め先がどこであれ、ジャマイカの被雇用者は本当に少しのお金しかもらえない。これは、労働者を搾取する構造が原因だ。ビジネスオーナーが労働者を家族のように大切に扱って、みんなで富を分け合うようになればどれほどいいだろうと思うけれど。

夏美:それが実現するには法律が変わらないといけませんね。搾取しても良いような社会構造のままではだめです。

Uley:出来れば言いたくないような言い方だけど… 奴隷制度が続いていると言わざるを得ない、そんな風に感じるよ。

夏美:数々のレゲエソングで、まさに今あなたが話しているような事が繰り返し語られています。どうして変わらないのでしょうか?

Uley:政治に問題がある。ジャマイカ独立以後、みんなが当たり前の暮らしをできるような社会が実現できていれば、ジャマイカにこんなにも多くの犯罪が起こっているわけはない。

「何も恩恵を受けられず、何も約束してもらえない」
Protoje – Kingston Be Wise

夏美:私は市民の力を信じています。レゲエアーティストもUNITY(人々が団結すること)の実現を訴え続けていますが、どうすれば人々が手を取り合って団結し、変化を生むことができるのでしょうか?

Uley:ひとりひとりが自分たちの権利について学び、本当に必要なことが何であるか気づく必要がある。そうでないから人々が分断されているんだ。2つの政党(現与党JLP、野党PNP)が政権を取り合っていても、状況が好転していないことにみんなが気づかなければいけない。

出典:Electoral Commission of Jamaica
総選挙結果マップ2020 グリーンが与党でオレンジが野党

夏美:やはり教育が鍵、ということになるのでしょうか。

Uley:その通り。教育は高校程度のレベルまで無償であるべきだし、ジャマイカ政府はそれを保障するべきだ。私はストリートチルドレンだったため、幼い頃は学校にあまり通えなかったんだ。

夏美:ジャマイカには深刻な課題がありますが、ジャマイカの人たちはどんなに辛い状況でも生きている瞬間を楽しむことができ、その生き様こそがジャマイカの魅力であると常々感じています。ジャマイカ人のポジティブマインドやサバイバル精神は一体どこから来るのですか?

Uley:私たちは苦しい時でも自分たちを解放することができるんだ。レゲエミュージックの教えさ。ジャマイカにレゲエがなかったら、私たちはこんな風には生き延びていないだろう。

夏美:ジャマイカで目にする搾取、貧困、差別などの問題は、ジャマイカに留まらずグローバルな問題です。しかし日本のような先進国で暮らしていると、その現実をリアルに感じ取ることは容易ではありません。レゲエやジャマイカのファンとして、具体的にどのようなことが実現できると思いますか?

Uley:国単位での文化交流が進めば、ジャマイカにある課題に気づいたり、疑問を持ったりする人がもっと増えるんじゃないかな。そしてもちろん、レゲエを通して何かを学んだ個人が、関連した問題に対してアクションを起こすということは可能だ。レゲエの力は偉大なんだ。

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