【インタビュー】Shenseeaの『Lick』はアリ?ナシ? ジャマイカ人女性とガールズトーク

Interview by 永村夏美 (NPO法人 LINK UP JAJA)
Text by BUZZLE MAGAZINE 編集部

2人のフィメールアーティストが突如シーンの話題をさらった。現在のダンスホール最前線を走るShenseea(シェンシーア)と、アメリカの超人気ラッパーMegan Thee Stallion(ミーガン・ジー・スタリオン)が、ジャマイカで長年タブーとされてきたオーラルセックスを肯定した楽曲『Lick』をリリース。「私のアソコを舐めて」という過激なリリックは賛否両論の大反響を巻き起こした。

この曲を聴いて、ジャマイカの女性は何を思うのか?現地で社会貢献活動を行うNPO法人 LINK UP JAJAの永村夏美さんをホストに、ジャマイカ出身のTAMIKOさん、 TRUDYさんをゲストに迎え、3人のガールズトークでリアルな意見を聞かせてもらった。

夏美:今日はShenseeaの『Lick』について伺います。ビーニマンが “Nuh gyal cyaan siddung pon mi head” と歌うように、ジャマイカでは女性に対するオーラルセックスはタブーでしたよね。ところが『Lick』では「わたしのプンプンを舐めて」と堂々と歌っています。

TAMIKO:この曲ではShenseeaはジャマイカのローカルをターゲットにしていなくて、よりオープンな海外のファンに向けて発信しているはず。私個人としては、いいリディムだし面白いビデオだとは思うけど、大きな物議を醸しているのは間違いないわ。

夏美:Shenseeaがローカルのジャマイカ人をターゲットにしていないというのは、Spiceと論争になった際に「わたしはダンスホールクイーンなんか目指していない。世界的なポップスターになる」という発言からも、納得がいきますね。

TRUDY:私的にはあのビデオはやりすぎ。Too much!歌詞はともかく、あの映像よ。Shenseeaだって一児の母。いつか彼女の息子があのビデオを観る時が来るじゃない。「お前の母ちゃん…」って学校の友達にいじめられるかもしれない。自分の子供にはとてもじゃないけどあのビデオは見せられないな。

夏美:子供に見せたくないミュージックビデオなら昔からたくさんありますよね。ジャマイカでは子供に見聞きさせるものをコントロールするのが難しいんじゃないですか? 例えば、バーで働いているお母さんの子供が母親の職場で目にする映像は「セックス&ドラック&殺人」みたいな過激な内容だったりするじゃないですか。汚い言葉もしかり、ゴンショットもしかり。

TAMIKO:実は、今私が暮らしてるドイツでは英語の歌詞の歌については放送規制がなくて、例えばヒップホップのリリックで使われるFワードも含め、何でもかんでも流すの。私は自分の子供がそういう言葉を理解していることは分かっているけど、それを口に出すことはさせないわ。

TRUDY:ミュージックビデオの中ではShenseeaがもう一人の女性とかなり際どい絡みをしている。オーラルセックスに加えてもう一つ、これは別に悪いって言ってるんじゃないけれど、レズビアンについてもプロモートしているよね。

TAMIKO:『Lick』は2つの行為をプロモートしている。男が女をLickすることと、女性同士がLickし合うこと。

夏美:でもジャマイカの男性は今でも「俺は舐めない ! 」って言いきってます。

TRUDY:彼らは嘘つきよ !(笑)誰にも知られたくないの。あなたがお喋りかどうか確認して、口が堅いと分かったらすぐ食べてくれるわ。

夏美:制服のままLickしてる動画が拡散されてクビになった警察官いましたよね。なんか可哀想でしたけど。

TRUDY:何言ってるの。あの人はその後、また警察に雇われたのよ。たくさんの女性が彼にラブコールを送って、彼は満足しているはず!お金も回るだろうしね。動画で彼女に「なんの味?」て聞かれて「ラムレーズン」って答えたから、あの警官はラムレーズンってあだ名で親しまれているの(笑)

夏美:タブーである行為を自ら喜んでする男性は昔からたくさんいますよね。ジャマイカにはタブーがたくさんあるけど、実際そういう行為が行われていることはみんな承知で、建前上口には出さないというイメージなんですが。

TAMIKO:その通り。「ダブルモラル」って言うの。人々が相反する事実と建前のバランスをどう保っているのか、正直私にも分からない。ホモセクシュアルもレズビアンも実際に存在しているし、そのことは皆承知しているけど、それを表立ってレペゼンするということはしない。例えばこのビデオをジャマイカの子供たちが見て、やりたいことを何でもやるようになるのは親としては受け入れられないわけ。もちろん、ダンスホールをやる上で時には過激なことに取り組むのは理解できるんだけど。

TRUDY:リリックじゃなくて、ビデオが問題なのよ。Ishawnaも似たようなこと歌っていたけど、映像は刺激的ながらクラッシーな美しさがあったじゃない?

TAMIKO:ジャマイカでは様々なタブーが少し緩まってきている。だって今、2022年なのよ。みんながあらゆることを話し始めていて、変化の訪れが見えている。ヨーロッパではその変化を受け入れるけれど、ジャマイカ人の中には「こんなもの子供に見せられない」って批判的に受け止める人もいるよね。

夏美:ジャマイカには男性だけでなく女性の中にもとても保守的な人がいますよね。

TAMIKO:その通り。例えば露出が多いファッションのフェミニストを批判する女性もいるし、反対に賛美する人がいるのは普通のことよ。

夏美:社会がダブルモラルであることによってよくない影響もあるんですか?

TAMIKO:ダブルモラルなのはジャマイカだけじゃなくて、世界中そうだけどね。ジャマイカでは教会に通う真面目な人もいれば、過激なことをする人もいる。だけど、例えばアーティストが過激なことを歌ったからって、それは表現活動であるから、必ずしもその人が歌の通りの生活をしているわけじゃない。インターネットによってあらゆることがオープンになり、賛成派も反対派もいるけれど、大切なことは受容することでしょう。「オーケー、ゲイがいるのは分かった。私はあなたたちが寝室で何をしていようと別にかまわないわ」って。人のビジネスに口を出しすぎるからモメるのね。

夏美:女性の権利についてはどうでしょう?セクシスト (性差別主義者) はジャマイカにたくさんいます。ダンスホールチューンでも、女性を性の道具のように表現する曲がたくさんあって、正直げんなりすることもあるんです。一方、ジャマイカでも以前より女性が自己主張できるようになってきたのかなと感じる場面もあります。

TAMIKO:それはもちろんそうよ。ダンスホールシーンでも沢山の女性アーティストが活躍しているけど、昔はもっと男臭かったでしょ。女性の権利を守るのは大切だし、そのことがより強く主張されている。もちろん以前からそういう女性アーティストはいたけれど、近年になって増えているよね。SpiceやKoffeeやShenseea、ダンスホールに戻ってきたLady Sawに代表されるように。ダンスホール業界にさらなる女性アーティストが必要とされていて、実際にたくさん出てきている。その流れを止めることはできないわ。

夏美:ジャマイカの女性は時として男性に対してとても従順になりますよね。男尊女卑的な風潮がある社会で、女性の権利が主張されるようになってきたのはいいことだと思います。

TAMIKO:ジャマイカ政府・文化庁の記事にも「より多くの女性アーティストの活躍を期待する」って書いてあったわ。実際ここ数年、本当に多くの若い女性アーティストが活躍しているね。

夏美:ShenseeaとSpiceが論争になり、そこへLady Sawが割り込んで大きな話題になっていましたが、真のダンスホールクイーンは誰なんでしょう?

TRUDY:Spiceがダンスホールクイーンよ。Lady Sawがダンスホールシーンを去ってもう何年になるか分からないけど、とにかくSpiceは長年パフォーマンスし続けている。Shenseeaはダンスホールプリンセスとは呼べるかもしれないけど、クイーンへの道のりは長いわね。

TAMIKO:『Lick』では「私がして欲しいことをやらない男なんていらない」と主張し、さらに女性同士がそれを行うことを表現している。これはみんなに大きな衝撃を与えたけど、そのことで彼女がクイーンになることはあり得ない。

TRUDY:ダンスホールクイーンの冠を授けるのはジャマイカのゲットーピープルなのよ。彼らが「あなたこそダンスホールクイーンだ!」と知らしめるの。Spiceはゲットー出身で生粋のゲットーギャル。海外から戻ると、ゲットーの人にエアコンを贈ったりしているしね。

TAMIKO:ゲットーの人はSpiceとのコネクションを感じることができるよね。

夏美:Shenseeaの「私はダンスホールクイーンではなくポップアイコンを目指している」という言葉にも表れているんでしょうか。

TAMIKO:小さいダンスホールのグラウンドに立つんじゃなくて、Sean Paulがいるような大きな世界に行きたいんでしょうね。

TRUDY:Nicki Minajがいるようなね。

TAMIKO:だからこそShenseeaは誰もが話している話題を越えるようなことをしなくてはいけないと感じたんじゃないかな。今までとは別の世界に行くことを目的としていたんだし、ビジネスはビジネスよ。彼女がお金を稼ぐのは海外だし、ジャマイカ人は曲を買うということをあまりしないから、必ずしもその曲がジャマイカでサポートされる必要はないのね。大きな議論を呼ぶと分かっているから、ラジオ局もかけないことを選ぶでしょうし。

夏美:ジャマイカには放送内容を監視する機関がありますもんね。ドイツにそのような規制がないというのは以外でした。

TAMIKO:第一言語のドイツ語ではないから別にいいでしょって、ありとあらゆるバッドワードが流れているわよ。だから自分の子供にも「この曲はダメ」と言ったりする。

夏美:日本には強い規制があります。テレビで裸を見せないとか、ポルノでもモザイクを入れるとか。ジャマイカのダンスホールで歌われるような歌詞が公共の電波で流れることは絶対にないわけです。

TRUDY:カーテルが捕まった時に裁判官が声明を出したのを覚えているわ。「カーテルが捕まるのは、罪に問われていることだけのためではありません。私の孫娘たち、そして全ての女の子たちのために捕まってもらうのです!」って (笑)

夏美:本当ですか!?モラルのために捕まってもらうと?

TRUDY:若い女の子たちはカーテルによってひどく開花されてしまったの。だって昔はジャマイカの男って女性の胸を愛撫することさえしなくて、ただ入れるだけのセックスだった。カーテルがそういうことを歌い出したら男たちもそれに習うようになったの!

夏美:じゃあまあ、いい影響もあったんですね(笑

TAMIKO:カーテルは檻の中でもあんなにたくさんの曲を作り続けている。ジャマイカはとことんダブルモラルね。

TRUDY:ジャマイカはMoney talk(お金がものを言う)よ。檻の中でも曲を作ったり女の子を呼んだり、捕まる前と同じような生活をしているわ。

TAMIKO:刑務所にいる限りは誰かに撃たれる心配もないしね。

TRUDY:時々「ジャマイカひどいな」って思うくらいよ (笑)

TAMIKO:国内で物事が矛盾して成り立っているのよね。これは解決すべき問題よ。だってたくさんの人が教会に通って神に祈っている傍ら、やりたい放題してる人たちがいるわけでしょ。中間を選ぶとか、方向性を選ぶとか、そうことが必要じゃない。私たちは何か確固たるものをレペゼンするべきだと思う。ジャマイカの音楽シーンは変化していて、私個人的にはあまりにもハイプしてる最近の曲よりも、オールドなエッセンスを持つ音楽が好き。

TRUDY:わたしも昔ながらのタイプが好きよ。若い子たちは私たちの世代 (30代以降) とは違うと思うけどね。

TAMIKO:でも変化を止めることはできないわね。

夏美:今日はとても興味深いお話をありがとうございました!Tamikoさんは3月にジャマイカに戻ってくるんでしたよね?みんなで遊びに行きましょう!

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