【インタビュー】Massa AquaFlow | 自分の生きる場所は自分で決めていい

Interview by Luma
Text by BUZZLE MAGAZINE 編集部

レゲエファンであれば、彼の存在を知らずとも作品を目にしたことがある人は少なくないだろう。国内外問わず著名アーティストのカバーアートやフライヤーを手掛けるデザイナーMassa AquaFlow。南国沖縄で培われた独自の感性から生み出される手描きの作品には温かさが宿り、決して古くはないが、でもどこか懐かしさを感じさせてくれる。今回は普段の彼の表現方法とは異なる言葉というツールで、作品たちに込められた想いを深掘りさせてもらった。

自分の生きる場所は自分で決めていい

− さっそくですが、まずは自己紹介をお願いします。

Massa AquaFlow:Massa AquaFlowという名前でアートとデザインの活動をしています。以前までは関東に住んでいて、2003年位から沖縄に移り住みました。そこから独学でデザインを学んで、フライヤーワークを中心に経験を積み、現在はロゴデザインやウォールペイント、アート作品などもするようになりました。

− 沖縄に移り住んでからデザインを始めたということですが、そもそもなぜ移住に至ったのですか?

Massa AquaFlow:大学を出て新卒で会社に入ったんですけど、会社員生活が無理だと感じてドロップアウトしてしまって、フリーターをしていました。それで、ふと考えたら僕の家庭は転勤が多くて。そういえば自分がこの土地を選んだわけじゃないな、自分の生きる場所は自分で決めていいよなって感じ始めて。

− 自分の気持ちに整理をつけていったんですね。

Massa AquaFlow:そうなんです。そういう葛藤の傍ら、レゲエが好きでStone Loveとかのいろんなカセットテープを聴いてたんですよ。国内のサウンドのテープもたくさん聴きました。その中で「Session Impossible」だったか、日本の12サウンドくらいのサウンドセッションの音源で、King Ryukyuっていうサウンドが明らかに他のサウンドと違ってて。それでKing Ryukyuの「Oldies But Goodies」っていうカセットも聴いてたし、あとはカエルスタジオのカセットにU-Dou & Platyっていうアーティストが収録されてて、友達に聞いたらそれは沖縄のレゲエだよって言われて。 

− 沖縄のレゲエを耳にする機会が多かったんですね。

Massa AquaFlow:そうなんです。そこで沖縄っていうキーワードが自分の中で大きくなってて。あとはタイに旅行に行ったときに「南国っていいな、移住したい」って感じ始めたんですよ。でも国外に移住するのはハードル高いなーって思っていたから、沖縄だったら国内で南国じゃんって思って。そこからは沖縄の旅行雑誌などを読み漁りましたね。

− 2003年とかだと全国的に沖縄ブームだったと思います。

Massa AquaFlow:そうですね、本屋には沖縄特集が溢れてた。ただそれだけでは移住する気になれなくて。本格的に移住するキッカケになったのが、ふと沖縄の新聞をネットで読んだんだけど、そこには僕が今まで調べていた常夏の沖縄とは違う現状が綴られていたんですよね。例えば、基地問題で飛行機が落ちただったり、離婚率だったり。こんなに表と裏で表情が違うんだって気になって、これは実際に目で見ないとわかんないなと思って、移住することにしました。

− そこから沖縄に来て、デザインを始めるまでにはどのような経緯がありますか?

Massa AquaFlow:移住してきたときに、友達がMacを持っててデザインツールを触らしてくれて。その時に「あれ?これがあれば俺もやりたかったことができるんじゃないか」と思ってデザインを始めました。実は、僕はもともと広告が嫌いで、電車の社内看板とか美しいものが無いなと感じていて。嫌な感情を煽るものが多かったんですよ。だけど、デザインを始めて広告業をやることになったから、自分は気持ちのいい広告を作ろうと思いました。最初はド下手すぎて、こんなはずじゃなかったのになって思いましたけど(笑)

− Macを使ったPCでの作り方から、今の手書きスタイルになったキッカケってありますか?

Massa AquaFlow:それはお客さんの希望です。Soul Powerの慶多くんから手書きで作れないかって言われて。その時に​​​​Sassafrasさん(ジャマイカの伝説的ポスターデザイナー)のフライヤーを見せられて、こんな感じでって言われて。わかりました!って答えたんだけど。結局それっぽくはなかったなぁ(笑)

− Massaさんの今のスタイルに至るまでに、影響を受けた人っていますか?

Massa AquaFlow:自分の今のスタイルは色々な分野からの影響を受けてますが、Sassafrasさんを始めレゲエのアートを作り上げてきた人や、日本で言えば浮世絵の方々とか、ヨーロッパの絵画の方々とか、先人たちが長い歴史と文化の中で生み出してきてくださった想像力と手仕事があってこそだと思っています。それを自分のスタイルに昇華しなければと思い続けてきましたが、最近ようやく自分らしさが出せるようになってきたかなと思います。

− 様々なところからインスピレーションがあるんですね。

Massa AquaFlow:そういえば、手描きを始めてしばらく経ってから、名前がかぶっていることに気がついたんです。SassaとMassaで… 〇〇 Banton 的な。スタイルもスタイルですし、名前も被ってしまって、これは挨拶に行かないとと思い続けて年月ばかり経ってしまって… 行きます!

沖縄の情景をデザインに落とし込む

− デザイナーとしてMassaさんが特にこだわっている部分はありますか?

Massa AquaFlow:デザインとして伝わることは大切にしつつ、世界観や物語を作るようには意識しているかな。あとは、人の心を動かせるようなものを作らないといけないとは思いますね。人の生活を豊かにできているかどうか。例えば、フライヤーを持って帰って部屋に飾ってもらえるとか。Haisai SoundのTeruyaくんが未成年の時に電柱に貼られたポスターを見てくれていて、「あの頃、ポスター見て行きたくてたまりませんでした」って言ってくれたり。そんな感じで人の生活に触れられて、豊かになっているといいなって感じますね。

− もともと広告が嫌いだったこともあって、その分人の生活を豊かにすることを意識しているんですかね。

Massa AquaFlow:他の部分だと、クライアントの世界観をちゃんと伝えるとかもあるかな。その人の好きなものだったり、ライフスタイルに寄せて描いたりします。あとは、文字の組み方は勉強していますね。制作のときはいつも最初は文字がなかなかかっこよくならないから不安なんですが、描いてるとその文字に個性が見えてきたりするんですよ。この文字の性格ってやんちゃだなとか、クールだなとか、恥ずかしがり屋だなとか。だから文字の性格をみんな把握するようにはしていますね。

− クライアントの音源を聴きながらジャケット制作の作業をしているって以前に伺ったんですが、Massaさんの中でキャラとか世界観を入れ込んで書いているなっていう印象です。だからデザイナーの部分とアーティストな部分が融合していますよね。

Massa AquaFlow:そうだね。もともとデザインとアートは別物だと考えていたんだけど、それが最近うまく一つになってきてくれていると思う。

− そんなセンスを磨くために日常でやっていることってありますか?

Massa AquaFlow:センスを磨くっていう部分で言うと、沖縄の景色を見ているかな。純粋に海とか山を見て「すげえきれい!」って思うけど、それと同時に冷静に見ている自分もいて。「あ、水平線っててこれくらい高いのか」とか「色ってこんな感じで出るのか」とかを見たりしてます。

− Massaさんのデザインの特徴に「雲」がありますよね。この雲も沖縄の情景からピックアップしているんでしょうか?

Massa AquaFlow:そうですね、あれも沖縄の雲です。沖縄の雲ってとっても近いんですよ。雲が好きになって、沖縄の雲の写真を撮ったり、雲の写真だけの展示会なんかもしてましたね(笑) 一番衝撃的だった雲は、朝方に立ち上がった雲があって、しかも色んな方向から雲が出てるんです。もう18年前くらいの話だけど今まで全然描けなくて、最近ようやくその雲を表現できるようになってきました。

– 特に沖縄の景色や色が感じられる作品はありますか?

Massa AquaFlow:基本的に全作品その色は入っていますね。例えば、DORA (a.k.a Queen D) の『Sweet Mama Island』の7inchのジャケットを制作させてもらったんだけど、曲の内容が自分の故郷の島を想う歌で。タイトルロゴはめちゃくちゃ大きなガジュマルに登って考えましたね。ただ最後の仕上げが納得いかなくて、僕のパワースポットのとあるビーチ行って、裏面にビーチの様子を書き足して。それで、Jah Works のオーナーに見せたら「〇〇のビーチですよね?」って言われて。「なんで分かるんですか?」って聞いたら、自分たちのホームのビーチでもあって、DORAもそこに連れて行ったことがあるって言われて(笑) ちょっとした奇跡というか、制作秘話なんですが。

− なかなかの奇跡ですね。

Massa AquaFlow:そうそう。他にはYAMATO HAZEっていうアーティストのCDジャケット制作は、ヤンバルっていう、ジャングルの山と海に囲まれた地域の小さな町に滞在してアイデアを練りました。彼の曲ってMary Janeをモチーフにした曲も多くて、都会な感じの曲なんだけど、山や海沿いで聴いてもすごいフィットするというか。それで都会から田舎に向かう感じの雰囲気を出そうと思って、沖縄の北部に向かう時に道路にかかる夕日の感じとかを落とし込みましたね。あとは、よく見ないとわからないんだけど、隠し絵になってて人が向かい合っているように見えるんですよ。煙が立ち上がっていく部分が人の横顔になってて煙を吐いているようにも見える、そういうジャケットなんですよね。自分でストーリーを作って情景を落とし込むといい作品になります。どれも時間はかかるんですが。

– 裏側にストーリーがあって、作品が生まれるんですね。

Massa AquaFlow:日本出身でジャマイカ在住のDJ Natttyくんのワンウェイアルバムのジャケットは、依頼のされた時のことがとても印象的でした。僕が東京・南青山のGallery5610で行われたDub Revolutionっていうグループ展覧会に参加させてもらってる時に、たまたま帰国していたNatttyくんが来場してくれて、初めて作品を見ていただき、会ってものの数分で制作を依頼してくれました。彼も僕と同じように移住した土地でシーンに根付いて頑張っている人で、新しいことを作り出している姿勢を見て、俺も頑張っていこうって思えました。

海外からの評価

– 海外からのお仕事も引き受けていらっしゃるようですが、どういった作品を作ってきましたか?

Massa AquaFlow:イベントポスターが多いんですよね。あとはサウンドとかイベントのロゴだったり、スウェーデンのレーベルから『Retro Teng』というSleng Tengリメイクのワンウェイが出てて、それはアルバムとシングルの2枚デザインしました。Beenie ManとかBurro Bantonが収録されていてびっくりしましたね

あとはイギリスのレーベルPressure Soundからレア盤の再発ボックスセットを出すって言われて、それはジャケットではなく箱自体をデザインして。Augustus Pabloのデビュー曲とか入っているんですよね。それは歴史に触れることができたなと思いました。レゲエの歴史を見てきた人が選んでくれてすごい「プレッシャー」だったんですが(笑)

– Eek-A-Mouseの日本ツアーの似顔絵も書いていましたよね。

Massa AquaFlow:あれはオカマイちゃんが声かけてくれて。日本ツアーの宣伝材料になるポスターとかTシャツになるものをということで。それをEek-A-Mouseさんが気に入ってくれて、日本ツアー以外の宣伝でも使ってくれていたみたいですね。

– デザイナー冥利につきますね。

Massa AquaFlow:そうですね。沖縄に来日した時に原画を持って挨拶しに言ったら「This is Original」ってサインもらえました。

– 海外の案件を取り扱ってて、どうしてMassaさんが海外から評価されているかって考えたことってありますか?

Massa AquaFlow:それ最近気づいたことなんだけど、日本人の几帳面さがヨーロッパのデザインセンスに近いんじゃないかな。スウェーデンのお客さんが多いんだけど、自分が好きなものがボルボだったりオーレ・エクセルっていうデザイナーさんだったり、スウェーデン軍のカモ柄だったり、スウェーデンで生まれているものが多くて。それは自分でも後から気が付いたんですけどね「これもスウェーデンだったんか」って。無意識の領域を本国の人がキャッチしてくれていたみたいです。

– Massaさんの内面が自然と作品にも表れているんですね。

Massa AquaFlow:それでさらにレゲエのデザインをしているから、そういう気質が向こうから見ると合うんだろうなと。あと、沖縄に住んでいるのも大きいと思います。沖縄の南国感。ジャマイカ人の人が僕のデザインを見たときに故郷を思い出すって言ってくれたんですよ。ただ僕はジャマイカに行ったことがないので、沖縄の色がそう思わせているんだろうなと。

沖縄の基地や戦争の問題を表現

– 直近で新しい作品の発表などはありますか?

Massa AquaFlow:普天間のNew Futenma Barbar Shopの 1 周年で、自分の作品展示をやってもらえます。それこそ今日話しにあった雲をモチーフにしたアートを描こうと思っているんですが、今まで沖縄に住んでいて感じることと、雲を組み合わせようと思ってて。沖縄に来た経緯も、沖縄の表の部分と裏の部分が気になって移住することを決めて、そこで関わった沖縄を表現したいと思ってて。基地の問題だったり、戦争の問題だったり、貧困の問題だったり。

– 沖縄に住んでいるからこそですね。

Massa AquaFlow:今回、基地のゲート前の軍の払い下げ品を売っているお店で軍服を買ってきてて、その軍服をキャンパスに作り替えて、その上に雲を描くんです。軍服ってそのものだけですごく考えさせられると思うんです。その反面、雲ってなんのメッセージもないと思ってて。記号でもないですし。もっと言うと、戦場って地上で争って土地も破壊してしまうんです。もちろん空で戦争も起こるんですが、雲って何も影響受けないよなっと思って。人類が誕生する前から、そこでただただ漂っているというか。その対比が酷だなと思うし、そういう表現ができたらいいなと思っています。

– なるほど。すごく興味深い表現方法です。

Massa AquaFlow:軍服と雲をかけ合わせたことで、人間が生み出してしまう争いとか混沌とや辛さ、またはポジティブな気持ちなど、自分が感じてきた様々な考えや気持ちを表現したいですね。そこからまたコミュニケーションが産まれたらいいなと思っています。そういう展示を普天間っていう基地のある地域で行うんですが。もしよければ見にきてください。

− それでは最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

Massa AquaFlow:もし沖縄に引っ越してくる前にレゲエを教えてくれた先輩とか友人たちが見てくれていたら、改めてお礼を伝えたいです。当時はなにもやってなかったけど、引っ越してきてこうなりました。お陰様です。「本土に戻ったらあの人たちがいる」と思うと安心できるし、支えになった存在だとまずは伝えたいです。あとは、自分があんまり本土に行かないのでわからないんですが、現物でもいいしネットでもいいので、自分の作品が届いていればいいなと思っています。

Massa AquaFlow

グラフィックデザイナー / ポスターアーティスト / オーガナイザー。
手描きによるタイポグラフィ(文字組み)主体のグラフィックが評価を得て、沖縄を拠点に、国内外のデザインに携わる。

1978年生まれ。 2003年の沖縄移住を機に、独学にてグラフィックデザインの活動を始め、2006年に生業とする。
「街に溢れるフライヤーはデザイナーのコンペティション」という思いを強く持ち、主にレゲエイベントのフライヤーワークに精力的に取り組む中で、「手描き」「文字組み」「雲」に辿り着く。

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展示について
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NEW FUTENMA 1 周年企画

Massa AquaFlow
Exhibition
“FUTENMA” & “CLOUD”

普天間にあるバーバーショップ NEW FUTENMA の 1 周年と連動しての展示企画。
店舗内の壁面を使ってのMassa AquaFlowの作品展示、および公開制作になります。

2022.05.25 WED – 6.5 SUN
10AM – 8PM

 5.25 WED
 |  壁面SHOPスローガン公開制作
 5.29 SUN ー PARTY!!
 | 通常展示
 6.5 SUN

@ NEW FUTENMA
〒901-2202 沖縄県 宜野湾市 普天間2-49-25-2F

“CLOUD”
雲をモーチーフにメッセージ性のある新作のペイントを展示します。また、1周年を機にバーバーのショップスローガン ” City Light for the New People ” をデザイン。原画および制作過程を展示し、5/25〜5/29は壁面への直接ペイントを公開にて制作します。

“FUTENMA”
AquaFlowのポスター過去作から、普天間で行われたイベントポスターを集めて展示します。ニュースの中では全国的に知名度の高い「普天間」の別の側面を、Party Poster / Flyerというメディアを通して感じてもらいたいです。

【ポートフォリオ】
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【Instagram】
@massa.aquaflow

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