提供:Pococha (DeNA)
Interview & Text by Umi Yamaguchi
パンデミックが終息しつつある昨今、世の中ではよく「生きづらさ」が語られるようになったと感じる。ここ数年で明白化した価値観の違いや格差を、それぞれが濁したり濁さなかったり。レベルミュージックに救いを乞いたくなるようなニュースばかりが目に留まり、ファミレスに行けば機械がご飯を運んでくる。それでも時間は平等に、私達を未来へと運ぶのだ。
停止していた時間が一気に加速したような2022年、そして迎えた2023年。アーティストは今、何を思うのか。
ようやく「現場」が確保できるようになってきている現在、BUZZLE MAGAZINEでは「現場以外での活動」にもフォーカスを当て、様々なアーティストによる対談形式のインタビューシリーズ「CONVERSATION」をスタート。アーティストにとってもリスナーにとっても、興味深い話がたっぷり詰まった各対談は必見だ。
そんな連載第1弾は大阪を拠点とするあの2人。
レゲエサウンドシステムJAH WORKSのOGA。そしてEMPERORのTAKU。今や世界を股にかけプレイするセレクターの彼らだが、旧友としても知られている。仲睦まじく話す2人からは温かさと同時に、異なるスタイルも伺えた。ともあれ、彼らが日本のレゲエを担うセレクターであることは間違いない。OGAが毎週水曜日に公開している「OGA WORKS RADIO」通称オガラジは今年で11年目を迎える。DJ TAKUが配信する「拓チャンネル」は毎日配信を続け、海外からのリスナーも多い。そんな彼らが織り成す歴史の裏にはどんな想いが込められているのだろうか。
対談場所は兵庫県、OGAの実家である本格インド料理店「TASTE OF INDIA Few」。テーマをいくつかに絞り提示していく中で、派生した話題から彼らの動向について探っていくことにした。

10年あっという間
OGA:最初の出会いはめっちゃ覚えてる。違かったらごめん。
TAKU:え、どこですか?
OGA:MASAが連れてきたんやと思う。
TAKU:あー! MASAとOGA君が一緒に住んでた時。
OGA:そう。俺が23か24歳くらいやって、TAKUがハタチか21歳くらい。その時にTAKUの同い年の、今は尼崎のDOWN TOWNっていうサウンドにいるMASAっていうセレクターとルームシェアしてて。その日はMASAの友達が何人か家に来てて、その中にTAKUがいた。そんで「自分らあれやったらイベント手伝ってー」って言って、サウンドシステム運んでもらったりとか、アーリータイム回してもらったりしたのがスタート。
TAKU:10年以上前ですよね?
OGA:そう。TAKUがサウンド始めたてくらいやったよな。
TAKU:そうですね。その時からもうOGA君のダンスにも呼んでもらったり。
OGA:イベントの主催者に「誰かサウンドおらん?」って聞かれたら、とりあえず「EMPEROR」って言ってた(笑) 後輩送り込みますって。
TAKU:お世話になりました(笑) 10年あっという間ですね。
OGA:つい最近のことのよう。あの頃と何も変わらないと思ってるから(笑) 変わったことはお互いゲストで呼ばれたりしてることかな。もっとそれが増えて欲しいなと俺は思ってて。EMPERORとは呼吸するように一晩中2サウンドだけでできるから。関西圏ではよくやってるけど、それを他の県にも見せたい。
TAKU:もっとOGA君と色んなところ行きたいですね。
OGA:(コロナが落ち着いて)現場もだいぶ盛り返してきて、地方はよく行ってるよな。3年分働いてます。TAKUと一緒に行ったのは…… 北海道が最後?
TAKU:それからは…… そうですね。楽しかったですね、一緒に移動して。
OGA:楽しかった。でもまあ全国的に見たら、頻繁にイベントやってる所と全然やってない所と、まだちょっとはっきりしてるかな。
TAKU:そうですね。
OGA:この数年間、同じ場所ばっかり行ってるっていうイメージ。都道府県ごとのコロナ対策の厳しさとかが関係してるのかな、厳しかった場所はお店自体が無くなっちゃってたりとか。北海道行って、九州行って、また北海道行って沖縄行って、また北海道行って、みたいな(笑) 地方はその3つばっかり。東京はもちろん行ってるけど。

海外での経験で高めたバイタリティ
TAKU:相方のJACKEYと一緒に半年間ジャマイカに修行しに行った時、3ヶ月くらい滞在しないと出られない長期間のサウンドクラッシュ「BOOM CLASH」が決まって。FIRE LINKSとかTONY MATTERHORNとか、ビッグサウンドたちが出場してて「俺たちにはまだ日本を背負われへんわ」って思ってたんですけど、成り行きで出場することになって(笑)
OGA:でも、やる前にジャマイカで一緒にご飯行ったりとか、みんなで遊んだりとかしてたけど、第三者から見ててあれは必然的って言うか。海外で半年修行しますっていうのはよくある話。だけど海外、しかもジャマイカの大きなサウンドクラッシュで、日本から誰かおらんかなってプロモーターが探してる時に、そこにグッドタイミングで居て、そこでちゃんとカマしてっていうのは、持ってるヤツしかできない。ホンマに出たくてもチャンス巡ってこない人もいるから。俺は帰った後で直接は見れなかったけど、ちゃんと盛り上がってたね。
TAKU:そうですね。プレッシャーはめっちゃあったんですけど、今思えばやってよかったなって。追い込んだからこそ成果も出たし、ビビらずやってよかったなって。すごく緊張はしましたけど。
OGA:俺は緊張はしたことないけど、色々なクラッシュやって、さすがに「WORLD CLASH」は意味不明な、言葉には表せない、始まったらもうやるしかないみたいな感じで。今振り返ると、自分を追い込んでたっていうか、精神的な面も含めて準備段階で相当余裕なかったんやろうなって。今やったらもっと楽しめるんやろなとは思うけど、あの時はホンマに余裕なかったな。自分の未熟さを感じました。
WORLD CLASH… アメリカのプロモーターIRISH AND CHINが主催する世界最高峰と言われるサウンドクラッシュ。JAH WORKSは2018年に出場
TAKU:カッコよかったですけどね。応援してました。
OGA:ありがとうございます(笑) 初めて海外でプレイしたとこは覚えてる?
TAKU:僕はちっちゃいローカルなところでやったのが初めて。初体験の時は言葉もちゃんと喋れるわけじゃないし、気持ちでやるしかないからめちゃくちゃ緊張しましたね。
OGA:ホントはしっかり素振りして、肩温めて挑戦するタイプ(笑)
TAKU:そうそう、不安でしゃーない(笑)
OGA:俺とかはもう行き当たりばったり。初めてはニューヨークの小さいパーティーだったけど、MAJOR MACKERELとかJOE LICK SHOTとかSLUGGY RANKSとか居て。何かけようか悩んで、その時自分がハマってたソウルの曲をかけてみたら1曲目でボスってもうて。ニューヨークでそんな豪華なメンバーが来てるイベントだったけど、それで一気に過ごしやすくなって(笑)
時代と共に変わりゆくタブー
TAKU:(ジャマイカ、レゲエ界でタブーとされてきた)ゲイとかレズビアンとか、今の時代、僕は全然アリやと思ってて。男同士でも好きになったり、女同士が好きになることだってあるわけじゃないですか。でも、曲ではバティボーイチューン(同性愛批判の楽曲)とかいっぱいあるから、かける時に違うものに置き換えたりしたらいいんちゃうかなとかは考えます。「バティボーイ=男らしくないヤツ」っていう意味を、女性に手を出すヤツとか、子供に手を出すヤツとかに置き換えて。
OGA:俺もヨーロッパツアーの時、何回かイベントで「そういう曲はかけません」っていう誓約書を書いて、そのくらいやらないと出られない国がいっぱいあって。ラジオでもかけれないし。で、まあ俺の意見としては、そういうLGBTQの人たちを受け入れていかないと、レゲエには未来はないと思う。否定し続けるとレゲエの居場所が無くなる。受け入れないと、いずれ消えゆくジャンルになってきてると思ってる。過去の産物っていうか、実際に2010年以降、それを否定する曲っていうのは世界的に見てももうリリースされてないし。けど1990年代、2000年前半の曲には、やっぱりどうしてもそういうワードが入ってもうたりしてるから、じゃあ俺らがかける時に、MCはあえてピックアップして伝えるのか、そもそもその曲を省くのか、エディットするのか、とか、そこはもう表現者の在り方に関わってくるから。
TAKU:本当そうですね。
OGA:ジャマイカも若い世代とかは段々気にしなくなってる。肌で感じるのは、受け入れるっていうか、そういう人がいても気にしないって感じ。ただ、年齢が上の人とか、旧型の人の中には受け入れられない人もいる。ジャマイカに限らず、レゲエに限らず、日本にもそういう人はいると思う。でもそれは別に…… なんて言うんやろ、急には受け入れられないっていうのもあると思うし、考えを変えられないからってその人たちを否定するのもまた違うんじゃないかなって。柔軟に考えられる人はカッコいいと思うし、新しい世代の人たちが新しい世界を作っていってほしいなって、俺は思います。
TAKU:傷つけたくないじゃないですか。楽しむために音楽を聴きに来て、楽しくないって思っちゃうのは良くないから。できるだけみんなが楽しめる空間を作るほうのがいい。
OGA:時代で言ったら、そこの部分がレゲエは遅れてるのかも。世界的に見てちょっと取り残されてきたんかなって。その定義がなかなか変えられなかった。逆に食生活だったりライフスタイルに関することの重要性は、BOB MARLEYの時代からめちゃめちゃ先取りしてたから。ずっと先取りしてて、やっと世界が追いついてきた。日本はむしろこれからやと思うし。まあ、そういうところで学び学ばれってところちゃうかなと。
関連記事:レゲエ界のタブーも変革の時か?「LGBTQ差別」に女性アーティストたちが声を上げる
時代にフィットしたライブ配信
TAKU:時代の流れでできるようになったこともあって、僕いま毎日Pocochaで動画配信してて。2年くらい続けてるんですけど、1日4時間くらいを週5で、だから週20時間くらいやってますね。最初はしんどかったんですけど、やればやるほどライフスタイルの一部に入ってきたというか、慣れてきたのもあるし。
Pococha… ライブ配信と視聴ができるライブコミュニケーションアプリ
OGA:1日は4時間すごいな。
TAKU:でも楽しくできてるんで。自分のスキルアップにも繋がるし、見てくれてる人のレスポンスもあるし。待ってくれてる人とか、毎日見てくれてる人もいるし、だからやらなあかんなと思うし。Pococha内でファミリーも徐々にできてきて、現場で集まろうみたいな会もできてたりとか。やっぱり現場に来てくれるように促したいっていうのはあるんで。OGA君も配信10年以上やってますよね?
OGA:「オガラジ」は2022年でちょうど10年目。
オガラジ… 「OGA WORKS RADIO」略してオガラジ。ライブ放送とアーカイブ放送合わせて毎週5000人以上が視聴する人気配信番組
TAKU:そうですよね。それで、オガラジファミリーも全国にいるじゃないですか。
OGA:全国にいるし、1人でも現場に来てくれるようになったな。
TAKU:現場と配信では客層が全然違いますよね。でも配信を見てくれて初めて現場に来てくれたり、逆に子供がいて現場に行けないお母さんとかが配信を見てくれてたりとかがあって。配信をやり続けるっていうのは、今の時代にフィットしてるのかなって思いますね。
OGA:俺の場合は昔レゲエ聴いてて戻ってくる人とか、レゲエ3周くらいしちゃってる人が多いから、役割分担でいいのかもね。
TAKU:あー、なるほどなるほど。
OGA:オガラジがかかってるお店もあって、レゲエを押してくれてるお店って貴重やなって。昔はフリーペーパーマガジンとかの媒体があって「レゲエがかかるお店」「レゲエ好きなマスター」みたいな特集があったりしたけど、今はそれが無いから。例えば、出張先でお店どこ行こうって時に、せっかくならレゲエ好きなお店が面白いやんってなるけど、探すのが難しい。レゲエバーって名付けてくれてたら分かりやすいけど。実はレゲエかかってんねんでっていう居酒屋とかバーっていっぱいあると思うんで。リストを作ってくれって言われるんですけど、なかなかね、デザイン力が無くて(笑)
TAKU:いやいや(笑) でもあったらいいですね。あと、僕は配信で生活がガラリと変わりましたね。友達と飲みにいったり、現場に遊びにいくことがかなり減って寂しい気持ちになったりはしますが(笑) 今は配信だけで生活が安定してるっていうのはかなり大きいです。だから続けられるところまで続けようかなと思ってます。セレクターはすごく配信に向いてると思ってて、アーティストより曲をかけられるし、Pocochaはやればやるほどマネタイズにも繋がってきてますね。
レゲエの未来は明るい
OGA:正直なところ、最近はジャマイカのダンスホールのブランニューを聴くより、今の日本の若い子の曲を聴く方が楽しい。俺はね。YOUTH of ROOTSの『Power of Jah』、ARIWAの『KOTAE』もすごく刺激を受けたし、その2人からはめちゃめちゃパワーもらってる。
TAKU:LEF-TとZENDAMANのとかも。
OGA:あれエモかったね。
TAKU:エモかったですね(笑) 地元の歌。才能溢れる若い子が増えてきて、第2世代も多いですよね? お父さんお母さんが若い頃にレゲエが流行ってた時のお子さんが大きくなって。みんなサラブレットやなって。
OGA:英才教育。
TAKU:そうですね、英才教育受けてるんやなって。小さい時から自然とレゲエ聴いて育ったアーティストなんやなっていう。
OGA:KONRYU (YOUTH of ROOTS) もそうだしね。
TAKU:ARIWAちゃんもそうやし、ZENDAMANもそんなようなこと言ってましたね。今、岸和田とかもアツいやないですか。お父さん世代がいて、息子たちもガッといってるって感じが。
OGA:うんうん。レゲエの未来は明るいよ。
TAKU:ですね。タレントが増えていくと盛り上がっていくもんやし、期待できますよね。楽しみにしてます。
OGA:俺も来年は国内外問わず面白いことをやっていくんで、チェックしてください。
TAKU:僕は…… 尼爆Crewみんなで尼崎市にクラブハウス作って、毎月第2土曜日と第4金曜日にイベントやってるんで、お時間ある方はぜひ足を運んでください。インスタとか見てチェックしてもらえたら。
OGA (JAH WORKS)

大阪老舗レゲエサウンドシステム”JAH WORKS”所属レゲエセレクター。
ラスタマンとしてレゲエのメッセージを体現するかのようなライフタイルを過ごす中で磨かれセレクタースタイルは唯一無二。
サウンドクラッシュシーンにおいては最高峰の”Japan Rumble”の 2018 年度 Championの結果を残し、海外ツアーも行なっているなど日本を代表する世界が認めたセレクター。
【Instagram】@ogajahworks
【Twitter】@JahOGAworks
【SoundCloud】OGA JAH WORKS
【YouTube】JAH WORKS OFFICIAL
TAKU (EMPEROR)

兵庫県尼崎市に拠点を置き日本全国、時には世界に活動範囲を広げる、レゲエサウンド(DJ集団)である。
音の格闘技と呼ばれるサウンドクラッシュで頭角をあらわし、2016年レゲエの本場ジャマイカで行われたサウンドクラッシュに出場。
本場ジャマイカで日本人代表として2勝を挙げた。また、サウンドクラッシュのW杯とも言える、WORLD CLASHへの出場権を賭けたJAPAN RUMBLEにも2回出場しており、惜しくも敗れているが人々の記憶に残る内容を残している。
2020年カリブの国アンティグアで行われたサウンドクラッシュで優勝。
初の海外タイトルを獲得し、今後の海外での活動も注目される。
自身のレーベルEMPEROR MUSICからのプロデュース曲の配信も精力的に行っておりレゲエミュージックを多くの人に届ける為日々活動をしている。
【Instagram】@emperor_taku
【Twitter】@emperortaku0714
【Pococha】DJ TAKU from EMPEROR
【TikTok】emperortaku0714