【楽曲レビュー】SHAKARA『ローファイなモーニング』| 現実と空想の狭間を創造する、挑戦的新曲

Text by Umi Yamaguchi

東京を拠点に活動するレゲエアーティスト、SHAKARAが新曲『ローファイなモーニング』を6月10日にリリースした。2022年7月、自身のEP『Street Nerd』リリース後、初となる待望の新曲だ。所属レーベルGrand Avenue Recordsからコンピレーションアルバムをリリースした際にも、BUZZLE MAGAZINEではインタビューを行ったが、まぎれもない。彼は「Street Nerd」だ。

そんなSHAKARAが生きるストリートから生まれた『ローファイなモーニング』は、レゲエでは類を見ない新しい遊び心が詰まっている。まずは、本楽曲を最後まで聴いてみてほしい。

1994年生まれのSHAKARAが最初に話題になったのは、MightyCrown主催「Sound City」だ。2013年より2年連続、未成年枠「Young Bloods」に抜擢され大きな話題となる。2017年に単身渡米しNYへ。当時のルームメイトであったDaisuke Kazaokaと共にレーベル、Grand Avenue Recordsを立ち上げた。結成経緯については過去のインタビューを読んでみてほしい。

2021年にはシングル『OLD SONGS』をリリースし、ロングヒットを記録。前述したEP『Street Nerd』は、iTunesのレゲエアルバム1位、総合17位を記録している。

レゲエアーティスト、ビートメイカーとジャンルを問わず活動する彼の、愚直なまでの音楽はリスナーの心を癒してきた。

今回リリースされた新曲『ローファイなモーニング』は、二日酔いの朝に焦点を当てている。ストリートでの洗礼を受けた起き抜け、昨夜の後悔をも肯定してくれるような「心身共に癒される」楽曲だ。

楽曲のベースは、レーベルメイトであるDaisuke Kazaokaがライブダブ(ライブスタイルでダブ処理を施す演奏手法)用に、制作したインスト曲。イベントで演奏していたのを聴いた際にアイデアが浮かんだそう。SHAKARAは早速データをもらいMPCに入れ、改めて手を加えて仕上げていったようだ。

ビートメイカーとしても活動するSHAKARAならではの試みとして、第一に、曲中でBPMを変えている。前半がBPM 84に対し、後半はBPM 68程度まで突然落とし、ドラムのパターンを変えた。近年ヒップホップや、簡易的なもので言うとTikTok内でも使われる「ビートトランジション」という手法がある。その名の通り、曲中でビートを変える手法だ。近年は日本のヒップホップで見かける頻度が多くなったように感じるが、レゲエではあまり例を見ない。その手法に寄せた方法を、SHAKARAはレゲエに織り交ぜている。

圧倒的な歌唱力を持つR&Bシンガー、Brandyが2002年にリリースしたアルバム『Full Moon』に収録された『All In Me』は、「ビートトランジション史において最もスムースだ」と評された。また、ロック・フェスティバル「SUMMER SONIC 2023」にヘッドライナーとして起用され話題になっているKendrick Lamarの、2012年にリリースされた2ndアルバムに収録される『The Art of Peer Pressure』は、「ビートトランジション史上でもかなりハードだ」と評された。曲中でテイストを一気に変えるとなると、違和感をスパイスとするか、フェードを織り成すか。複雑な感覚が必要になる。

『ローファイなモーニング』では前半、ジャジーなレゲエのループに、ブーンバップ風味の固めなドラムを打ち込んでいる。ボーカルはリバーブやビブラートを纏ったような質感で、まさに頭にモヤがかかった様子を彷彿とさせる。

R&Bアーティスト、SZAが2022年にリリースしたアルバム『SOS』は世界的メガヒットを記録しているが、アルバムとともに全米一位を獲得した収録曲『Kill Bill』も、ボーカルに似た質感のエフェクトを使用している。変調のタイミングと曲のテンポを溶け込ませるためにエコー効果を使用しているという解説もあるが、切ない歌声が綴るのは「刀を手に取り元恋人に復讐を計画する」という過激な内容だ。しかし彼女は「I might kill my ex, not the best idea」と歌っている。元カレを殺すかも、でもいいアイディアじゃない、と。彼女は元恋人への愛と憎しみの狭間でもがいているのだ。

ここで『ローファイなモーニング』のリリックを読むとしよう。

” 朝飯なんか食えやしない まだ続いてる夜の香り
 だって脱いだ服もタバコ臭いし 記憶にないが部屋は汚ねぇ ”

” こんなんじゃない 沈む身体のそばに溢れ出すジェラシー
 冗談じゃない やることなら山積みさほらすぐそこに ”

世には「酒鬱」なる言葉があるが、その状況に陥った時には自己嫌悪し、投げやりな気持ちになるだろう。過去に思い当たる日がある人も少なくないはず。どちらかと言えば後ろめたく、誇れはしない自分に苛まれる。状況は違えど、両者が各楽曲の表現方法として、リバーブなどのエコー効果を採用した感性には通ずるものがあるのかもしれない。

曲の後半、SHAKARAの第二の試みとして、ベースラインにリズムマシン、TR-808(通称:やおや)を使用している。1980年代に発売されてから今もなお、世界中で高く評価されている名機だ。2010年以降、トラップが人気を博す中で、重低音が効いたベース制作のためのマシンとして認知されるようになった。現在ではUKドリルなど使用されるジャンル幅も広がっているが、日本のレゲエシーンで使用しているという話はこれまた聞いたことがない。

BPMを落とした後半は、ジャングルを奥へ奥へと進むような唐突な静けさとともに始まる。最中で「夢の中へ……」と繰り返されるボイスの趣旨に念を押すかのように、沈んでいく様子を見事に表現している点は圧巻と言えよう。前半とは対照的に冷たく尖ったドラムが加わったところで、雰囲気はガラリと変わり、彼はこう歌い始める。

” のらりくらり揺れながら進む おさえる帽子 オンボロの宇宙船 そちらどんな調子 ”

夢の世界で旅をしながら、どんどんと突き進む物語。そんな空想の世界でも彼のクリエイティブは才を見せる。

” 敵が接近だ ペリー星のスーパーエイプ ”

あの奇才、Lee “Scratch” Perryとハウス・バンドThe Upsettersによる大名作『Super Ape』のことだろう。ダブ界に大きな影響をもたらしたLee Perryは2021年、生涯に幕を閉じたが、数々の名作の中でも「夢のような作品だ」と言われる本作。そこに採用されたのは一度見たら忘れられない、あのアルバムジャケット。

Bob Marleyのアルバム『Natty Dread』のジャケットワークも手掛けたロンドン出身のアーティスト、Tony Wrightによるアートワークだ。表現主義者のLee Perryと同期したかのような躍動感と精神的メッセージを感じる、インパクト絶大な猿。思わず進撃の…… なんて付けてしまいそうなこの猿。

猿の迫力にのめり込んでしまう前に話を戻そう。大名作のアルバムジャケットを夢の中での敵としてある種、オマージュしたのは、これもまた彼のユーモアであり創造力だ。

夢物語は進み、冷気を纏ったビートが、まるで海底のような雰囲気を作り奥底へと沈んでいく。

” ただ深くてただ深くてただ暗いとこ この暗闇で退屈について話そう ”

最後には拍子抜けのイビキがサンプリングされ『ローファイなモーニング』は締めくくられる。実際に自身のイビキを録音したという彼の遊び心は、制作されたPRビデオからも感じ取ることができるだろう。

二日酔いという日常に焦点を当て、ジャンルの枠を排除し挑んだ楽曲『ローファイなモーニング』。現実と夢の世界でまどろむこの物語は、彼の実質的な視点と、空想を作り上げる五感によって出来ている。挑戦的とも言える本作は、頑なに追い続ける彼の”ストリート”が反映されているように感じた。

” 探すきっかけ 今は点だけ きっと線になると信じ 通す芯だけ ”

しかしSHAKARAの魅力の肝はそこだけではない。

” Searching for Searching for a light 今は周りが何にも見えない
 Searching for Searching for a light だってあの曲も満足に聞けない
 今はまだ少し時間かける 満足のいくまでちょっと寝るだけ ”

嫌気がさすような自身をこしらえる賢さ。うだるような世界をも肯定するような温かさ。根底に根付く彼の心情が見え隠れする度に、なんとも言い難い、ウズウズした感覚に包まれる。濃密な起伏をベースにした彼の音楽は、今後も鋭く瑞々しい作品を残していくだろう。類まれなる世界観を、ぜひ一度体感してみてほしい。

ローファイなモーニング

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ローファイなモーニング – SHAKARA

Artist: SHAKARA
Release Date: 2023/6/10
Label: Grand Avenue Records
Format: Streaming or Download
Produced, Lyrics & Music by SHAKARA
Composed, Instrumentals by Daisuke Kazaoka
Rec, Mix & Mastered by Lil May aka May Daishi

SHAKARA

【Instagram】@shakara_the_kid
【Twitter】@shakara_the_kid

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